物が売れない時代に、いかにサービスで差別化するか? ~顧客満足度指数の確認に、朝礼・終礼や電話応対等の日常業務を活用する~
投稿者:小川 悟
2010/03/16 22:22
この記事は約9分で読むことができます。
We are Ladies and Gentleman serving Ladies and Gentleman.
紳士・淑女をおもてなしする私たちもまた紳士・淑女であるべきです
/『心のこもったおもてなしを実現する サービスの手帳』(林田正光著)
3月初旬は各種セミナーへの参加と、当社自体でもフリーセル大学にて、「サイト品評会」をアップグレードさせた、アクセス解析を用いたサイト改善案出し等を中心としたグループディスカッションが開かれたりなど、期末にあって慌しいスタートとなりました。
■(下)「フリーセル大学」でのスタッフの発表風景。納品後のお客様のWebサイトを実例に、初回打ち合わせ時のヒアリングシートや直近のアクセス解析結果等からサイト分析を行い、改善案をグループディスカッションし、結果発表を行った。
まず、インサイトラーニング株式会社の代表取締役・箱田忠昭氏による管理職向けセミナーへ参加、続けて翌日は、株式会社HAYASHIDA-CS総研の代表取締役・林田正光氏のセミナーへ参加して参りました。
各イベントについての詳細は機会があれば触れることにしますが、ここではこれらの内容に関連するかのように興味深い記事が発表されましたので、そちらをご紹介したいと思います。
■待望の「業界横断」顧客満足ランキングが登場!(「日経ビジネスオンライン」,2010年3月16日)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20100315/213389/
これは、サービス産業生産性協議会が日本で初めておこなった「日本版顧客満足度指数(JCSI)」の調査結果を元にした記事です。
cf.平成21年度 JCSI(日本版顧客満足度指数)調査結果発表 ~利用者のべ10万人に聞いたサービス業29業界の優良企業~
http://www.service-js.jp/cms/show_news.php?id=212
これは興味深い取り組みです。
観光庁発足時にコラム(cf.『観光産業のWeb戦略への取り組みはどう変われるか? ~10月1日、国土交通省「観光庁」発足~』)を書いたことがありましたが、観光産業にはサービス業が付き物です。サービス業の強化がそのまま観光収益に繋がるわけですから、観光産業はサービスレベルを向上させなくては始まりませんね。
ということで、第1回の総合1位は、レジャーイベント業界1位の東京ディズニーリゾートでした。東京ディズニーリゾートについてはこれもまた以前にコラム(cf.『不況に負けない「原因」と「結果」の創り方 ~ディズニーリゾートにサービスの本質を学ぶ~』)で採り上げたことがありましたが、突然の調査においても見事に1位に輝くというのは、普段からの変わらぬ信念に基づくものなのだろうと想像しました。
この調査は、実際の消費者を対象にJCSI(日本版顧客満足度指数)が掲げた、以下6項目(21設問)に加え業界個別の質問等90設問をおこなったものだそうです。
[顧客期待]利用前の期待・予想
[知覚品質]利用した際の品質評価
[知覚価値]価格への納得感
[顧客満足]
[クチコミ]他者への推奨
[ロイヤルティ]継続的な利用意向
こうした指標(KPI)は、CS本部の目標設定をする上でも、全部が全部でなくても大変参考になります。
「物が売れない時代に、いかにサービスで差別化するか?」
これは業界問わず、どの企業でも課題になっているのではないでしょうか? その証拠に、先の林田氏講演の「会社が変わる! 社員が変わる! CS・ホスピタリティセミナー」には、多くの業種・職種、職位、年齢の方がご参加されており、質疑応答時は自社のケースをご相談される方が多く、大変興味深く拝聴させて頂きました。
■(下)林田正光氏の「CS・ホスピタリティセミナー」を受講した際に頂いた修了証
第三次産業は、GDPベースで見れば日本経済の実に7割を占める産業です。
であるにも関わらず、近年、サービス業の生産性は低い水準のままとなっています。これは旧来型の日本の産業が「ものづくり」中心で、世界的評価もそこに集中していたことが一つ言えることかもしれません。今や「世界の工場」は日本ではなくなり、高度経済成長期の製造業の隆盛を引きずったまま幻想に身を委ねていると、ホワイトカラーの仕事でさえ発展途上国に奪われかねない世の中になってきました。
また、それに絡めて、「言葉や文化の壁」も大きいと思います。オフショア開発が難しいと言われる所以もそこにあると思いますが、逆に海外の「ものづくり」や「サービス」が日本へ進出する際に参入障壁となるのが言葉や文化の違いだったりすると思いますが、そういう点でサービス業は製造業とは異なり、世界の競争に揉まれることなく日本の「サービスレベル」は日本のペースでイノベーションが図られてきたと言えるかもしれません。
【ものづくりと比べて、軽視されるサービス産業】
日本では「ものづくりが重要」ということについて経済界・国民の間にコンセンサスがあるがサービスについてはそれがない。
【サービス科学・工学の重要性】
サービス産業はちょっと工夫すればとりあえず事業が成り立ってしまう。製造業は研究開発をしないと生き残れないが、サービス産業はそうではない。それだけにさらに組織的に研究を深めようという取組がサービス産業では生まれない。
/『サービス産業におけるイノベーションと生産性向上に向けて』(経済産業省編)
想像してみるとよく分かります。
私は深夜のコンビニをよく利用しますが、コンビニによっては店員に日本人がいないケースがあります。多くのケースでテキパキとレジを打つ様子は見られず、レジにお客様が並んでも、周囲で棚の整理などを行っている店員が、気を利かせて手伝いにくることも多くありません。また、レジで購入する際も、「いつもありがとうございます」といった言葉もなければ、店員の顔に笑顔もありません。しかも、このことはコンビニが普及してから、あまり変わり映えのない日常の出来事となっています。「店長がちょっと教育すれば、思い切り変わるのに」と思ったことが何度もあります。
私は学生時代、ガソリンスタンドでアルバイトをしていたことがありました。その頃の思い出として私は、所長がいつも「ガソリンスタンドと言わず、サービスステーションと呼びなさい」とおっしゃっていたことを思い出します。日本ではまだセルフ式ガソリンスタンドが登場する前の話でしたが、確かに仕事の幅は給油に限らず、手洗い洗車から窓拭き、オイル交換やタイヤ交換、車検代行まで、単なる物の販売ではありませんでした。私のいたガソリンスタンドは完全歩合制でしたが、元気良く挨拶を続けていると固定のお客様に気に入って頂き、そのお客様がいらっしゃると同じアルバイト仲間が気を使って私に給油作業を譲ってくれるようになります。お客様もだんだんと世間話をしてくれるようになり、やがて商品を購入する際は私を指名して行われるようになっていきました。
この目で見て分かる「顧客心理の変化」こそ、接客業、ひいてはサービス業の醍醐味でないかと当時思ったものでした。
以上、この記事がサービス業全体に競争原理を生み出すことは必至だと感じました。これによって、物(製品)で差別化が図りにくかった昨今の市場において新たな指標が明示されたわけですから、当社が一般的に括られる「IT企業」もサービス業にはカテゴライズされなかったものの、中小・ベンチャー企業に向けたサービスを提供するといった側面では、参考にすべき指標だと感じました。
冒頭に掲げた林田氏の『サービスの手帳』の一節は、今の私たちに気付きを与えてくれます。紳士・淑女は大袈裟までも、経営者の方を相手にした仕事ですから、私たちも経営者と同じマインドでお客様に接する必要があります。こういった意識の醸成には、朝礼や終礼が便利です。私の見るCS本部に、「コンタクトセンター」というチームがあります(cf.『「コンタクトセンター」発足から1年 ~「顧客の声(VOC)」に耳を傾けることの重要さ~』)。このチームでは早速、『サービスの手帳』 を購入し、朝礼や終礼で一つずつチームで共有するように取り組んでいます。最初は他人事に聞こえたような手帳にある言葉も、毎日の習慣の中で読み上げられていくと、いつしか自分の意見のように感じてくることがあります。やがてこれらが行動に現れるまでしっかりと続けていきたいと思います。
また、このコンタクトセンターでは、1、2ヶ月前に簡易のCTI(Computer Telephony Integration)を導入しました。インバウンド専用に近いもので、主にポップアップ機能に特化したものです。お客様から電話がかかってくると、内蔵された顧客DBを参照して、お客様の管理情報がPCの画面にポップアップで表示されるというものです。これにより、電話に出た瞬間、「○○様、いつもお世話になっております」と電話に出ることができるようになります。最近、私たちがお客様に電話した際にも、「フリーセル様、いつもお世話になっております」と社員の方が電話に出られるケースが増えてきました。弊社と繋がっていることを感じさせてくれ、安心感を感じることがあります。
先ほどの『サービスの手帳』には、以下のようにもあります。
お客様をお名前でお呼びしよう。そして名前を大切にしよう
相手のお名前を呼ぶという行為は、「その人のことを大切にしています」というメッセージの発信です。
/『心のこもったおもてなしを実現する サービスの手帳』(林田正光著)
電話対応は日常業務です。日々、数十件の電話のやり取りが発生しますが、この電話応対の品質向上を図る改善は、毎日のことだけに、社内外に大きな効果が現れてくるのではないかと感じています。先ほどの指標を参考に、日々の終礼でふりかえりをしても良いと思います。最初は定性な指標から始まってゆくのかと思いますが、毎日訓練することでしっかりとしたサポート業務が行えるようになるのであれば、こうした機会を活かさない手はありません。まだまだいろいろ取り組み中で、至らぬ点もあるかと思いますが、今後ともどうぞ宜しくお願い致します。