「経営コンサルタント」誕生から五十余年 ~ピーター・F・ドラッカー生誕百年、「マネジメント」を再考する~

投稿者:小川 悟

2009/09/12 16:08

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マネジメントのセミナーでよく取り上げられる話に、何をしているのかを聞かれた三人の石工の話がある。一人は「これで食べている」と答え、一人は「国で一番の仕事をしている」と答え、一人は「教会を建てている」と答えたという。

/『現代の経営(上),~「専門化した仕事にひそむ危険性」より~』(P.F.ドラッカー著)

今年2009年は、「現代経営学」、「マネジメント」の父と言われる故ピーター・F・ドラッカー教授の生誕百年にあたります。ドラッカー教授は「経営コンサルタント」の呼称や概念の考案者、(現代的な)「マネジメント」の発明をしたと言われ、私も「Webコンサルティング」を体系化し提供する企業に属する立場として、氏の遺された著書や考え方には興味深く感じています。そんなドラッカー教授の有名な言葉に、「事業の目的とは顧客をつくり出すこと」というものがあります。多くの方が言う「利益を生み出すこと」とは似て非なる言葉であり、その言葉に込められた本質について思わず考え込んでしまいます。

私は終戦直後、兄が経営する洋品店を手伝い始め、「お客様のほうを向いた商売」を教えられました。その洋品店が連結売上高六兆円に迫るセブン&アイ・ホールディングスに成長できたのは、何よりもお客様が支えてくださったからです。先生の言葉の意味は身にしみてわかります。

/『知の巨人 ドラッカー自伝』(ピーター・F・ドラッカー著)

上記のように言うのは、イトーヨーカ堂やセブン-イレブン、デニーズの創始者、そして、現在セブン&アイ・ホールディングス名誉会長を務められる伊藤雅俊氏ですが、他にも「ここ百年ほどの間で経営者としてもっとも成功した人物」(cf.『われわれに不況はない 世界最強CEO21人の経営術(ウォール・ストリート・ジャーナル編集部編)』)とも言われる、GE(ゼネラル・エレクトリック)社で会長兼CEOを務めたジャック・ウェルチ氏など、ドラッカー教授が輩出した企業人・経営者には著名な方が大勢いらっしゃいます。

この平成大不況の真っ只中にドラッカー教授の生誕百年を迎え、改めて「顧客をつくり出すこと」とは何か、そして「マネジメント」とは何か?ということを再考する良い機会になったと感じたのは、先週金曜日に当社管理職向けに行われた研修でした。今回のコラムでは、そこで受講した内容から転じて私が感じたことなどを書いていきたいと思います。

 

研修は今まで行ってきた内容から引き続き、マネジメント・リーダーシップに関するものでした。自身のプライベート・ミッションと当社の理念やビジョンとをミッションリンクさせて、今なすべきことは何かを洗い出し、実行フェーズに移してゆくトレーニングとでもなりましょうか。

幾つかのグループに分かれ、配布されたフレームワークに言語化しようと皆で頭をひねるわけですが、普段使わない脳の筋肉を使うようで思いのほか疲れます。しかし、集中して臨んでいるとその過程で普段は思いもよらなかった新しい発見をすることもあります。こういった効果を「セレンディピティ効果」(cf.「セレンディピティ – Wikipedia」)と呼んだりすることもあるようです。研修の内容と同時にこうした発見を得られるのは、読書と同じく一石二鳥で良いことだと感じました。以前書いたコラムでも、『7つの習慣』の中で「(ミッション・ステートメントを)書き上げる過程が、最終的な文書と同じくらい重要だと思う」と言及したスティーブン・R・コヴィー氏の言葉を引用しましたが、このようなトレーニングは日々の仕事の中では得られにくい、感性を刺激する経験を得られるものだとも思いました。

研修には当社管理職以上の者がすべて参加するので、私の見るCS本部の課長職以上の者は全員参加しているわけですが、彼らはもちろん各部門で設定されたミッションを遂行する上で必要な能力に関しては私よりもはるかに上をいっています。ドラッカー教授の『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』にも書かれていますが――アメリカの鉄鋼王アンドリュー・カーネギーが自らの墓碑銘に選んだ「おのれよりも優れた者に働いてもらう方法を知る男、ここに眠る」との言葉ほど、大きな自慢はない。まさに、これこそが、成果をあげるための処方である――、私たち管理職が目指すのはこのような企業文化の浸透した組織をつくりあげることだと思います。

彼らが入社してきたときのことをふと思い返しました。私の入社よりも3年以上経ってからの入社であり、当社のメイン事業であるWebコンサルティング事業が開始してからのことでした。今の体制を築き上げ、各種業務フローやルールを創り出してきたのは紛れもなく彼らなのですが、今まさに、後続する組織を築くという壁にぶち当たってもがいているのが正直なところです。

リーダーシップとは、人を惹きつける資質ではない。そのようなものは煽動的資質にすぎない。リーダーシップとは、仲間をつくり、人に影響を与えることでもない。そのようなものは営業マンシップにすぎない。リーダーシップとは、人の視線を高め、成果の基準を上げ、通常の制約を超えさせるものである。

/『現代の経営(上)』(P.F.ドラッカー著)

こうした重要な転換期において、ドラッカー教授の言葉はまさに金言ばかりのように聞こえてきます。

私たち管理職も、ややもすれば「目的」と「手段」を履き違えることはあります。定期的にこのような研修の機会が設けられることになって、私たち管理職一同にとっても、改めて「目的」に視線を向け直せる良い機会となっています。日々の仕事の中で手探りでその可能性を探し当てようと必死でもがく行為や過程は人の成長に付き物だと思いますが、研修や読書をカンフル剤のように活用して一気にステップアップを狙うのも、今のようなスピードが求められる時代には必要な選択だと強く思いました。そして最も重要なことは、研修で得た知識や見識を、自身に与えられたミッションの中でしっかりと成果として生み出さなくてはならないことです。

 

先日、当社社長から、マネジメントにおける「厳しさ」について教えられる機会がありました。言われてみて、今までの管理の中で中途半端な「甘さ」が、中長期的期間に渡って最終的に不幸な人を生み出してきたことはなかったかとハッと思いました。Webコンサルティングのプロフェッショナルを目指すのと同時に、マネジメントの「プロフェッショナル」を目指す私たち管理職にとって、常に意識していなくてはならない考え方であると思いました。

本コラムの途中で、ドラッカー教授の『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』の一節を引用しましたが、この内容が書かれているのは「人の強みを生かす」という章で、先のカーネギーのエピソードを受ける形となった重要な続きがあります。コラムの最後にその一節を引用して締めくくりたいと思います。

上司は部下の仕事に責任をもつ。部下のキャリアを左右する。したがって、強みを生かす人事は、成果をあげるための必要条件であるだけでなく、倫理的な至上命令、権力と地位に伴う責任である。弱みに焦点を合わせることは、間違っているだけでなく、無責任である。上司は、組織に対して、部下一人ひとりの強みを可能なかぎり生かす責任がある。何にもまして、部下に対して、彼らの強みを最大限に生かす責任がある。

/『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』(P.F.ドラッカー著)