アイデアを形にするしくみとブレイクスルー思考 ~『アイデアのつくり方』を読んで「発想」の源泉について考える~

投稿者:小川 悟

2011/05/21 23:02

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アイデアこそが広告に精神と生命を吹きこむ。広告制作者がその手腕を発揮する上で、これより大切なものはない。

(序文より、Doyle Dane Bernbach社社長、William Bernbach氏)

/『アイデアのつくり方』(ジェームス W.ヤング著)

昨日20日は、仕事が終わった後に、Web&モバイル マーケティング EXPO【春】(Web-Mo 春) の当社出展プロジェクトメンバーの打ち上げに参加してきました。

 

先週末で終了した、この「Web・モバイルマーケティングに関するソリューションが一堂に集まる日本最大級の専門展」に当社が出展するのは今年で4回目でした。今回は時代を反映して、今年で第2回となった「クラウドコンピューティングEXPO」に続いて、「第1回 スマートフォン&モバイルEXPO」が併催されるなどした関係か、5/16時点の来場者数速報値を見ると、3日間で124,000人以上の人が来場される程盛り上がったことが分かります。

まずは当社ブースまでわざわざお越し下さいました企業ご担当者様、お客様、お取引先様、皆さま、誠にありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます。

 

 

さて、本題に入ります。今年に入ってからのこのコラムの中で、今年の干支である「辛卯」(かのとう、しんぼう)について少し触れたことがありましたが、ポジティブな側面でとらえ直し、今年が「新しく芽が生じる年」になるとすれば、当社にとっては当たり年になるかもしれません。

――と言いますのも、今期第11期に当社で掲げられた経営テーマは、「全員アドベンチャー」で、この詳細については、当社代表の木村のコラムを参照頂きたいのですが、新たな価値を生み出したり、既存サービスのカイゼンや、イノベーションがテーマになっている期となっているからです。

今期、大きなインパクトのある事業が誕生するのが理想ではありますが、一見小さなものでも、そのカイゼンによって、お客様に喜んで頂く割合、回数、度合が向上するのであれば、巡り巡って社内スタッフのモチベーションも向上するため、そうやって良質なスパイラルを生み出すだけでも、お客様・当社の両者にとってベネフィットに繋がると考えています。

 

以前もこのコラムでご紹介した、当社が既存のお客様向けに実施している顧客満足度調査ですが、先般、第10期(2010年4月~3月)に納品が完了したお客様の内、アンケート回答にご協力頂きました350社のお客様から頂いたご意見の集計が完了しました。

「不満足」をなくすことには至りませんでしたが「満足」が5%伸びました。前回は半期分で総数が今の半分以下であったので、下半期で一層のカイゼンが進められたと自己評価しております。もちろん厳しいご意見もありましたが、どちらかと言うと「思ったより全体的に品質が悪い」というご意見は極まれで、大体が「まだ始まったばかり、これからが本番」といった期待感・ご要望に近いものであると感じました。

 

 

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■顧客満足度調査結果

http://www.freesale.co.jp/service/customer.html


そのため、上記ページ下段の方をご覧頂けるとお分かり頂けるかと思うのですが、組織再編を行い、中小・ベンチャー企業のWeb戦略をサポートする上で、最も多くの、そして強いニーズがある、納品後の運用体制を強化して、今期スタートを切りました。

 

これらは恒常的なカイゼン業務ですが、新規事業開発支援、及び事業推進のためにも、既に当社では相応の制度が走りました。スタッフからの新規事業提案をフォローする仕組みです。「挑戦」することに尻込みしてしまうスタッフも、こうした仕組みでカバーされるのではないかと感じています。このように社内制度化することで、推進力を得ようとする企業様は多いですよね!

「じんつく」というサイトは、眺め見ているだけでも「へぇ~」という気分になります。

 

cf.じんつく-みんなで作る人事制度図鑑-

http://jin29.jp/

 

上記にもあるかもしれませんが、こうした社内ベンチャー設立支援、新規事業・商品開発の支援制度の類で直感的に想起するのは、リクルート社の「New-RING」、セプテーニ社の「ひねらん課」、GMOインターネット社の「夢手帳立候補制度」、サイバーエージェント社の 「ジギョつく」、他にもちょっと系統が異なりますが、ミクシィ社の 「One Day Free(ODF)」や、グーグル社の「20%ルール」等々でしょうか。このような「しくみ(社内制度等)」が、多くのユーザーに愛される商品・サービスを生み出してきた事実もあるのでしょうね。

 

ただ、いくら「しくみ」(社内制度等)が整備されても、そのしくみを活用するのはやはり「人」です。本質的な理解が求められることはもちろん、そもそもの知識や情動のようなものがなければ、良いアイデアも出てこないかもしれません。

 

孫正義氏がかつて「Bit Style」という会合でおこなったスピーチの内容について、過去私もこのコラム(cf.「クロニクル「インターネット業界10年史」 ~まるでビッグバンのように、超高圧な一点の意志からその広大無辺な市場は生まれた~」)の中で引き合いに出したことがありましたが、そこで孫氏が、ビジネスを成功させるために必要な条件を4つ挙げて未来の起業家たちにエールを贈ったエピソードが有名です。

その4つとは、「志」、「アイデア」、「仲間」、「資金」でした。この内、今回は「アイデア」について少し掘り下げて考えてみたいと思います。

 

 

冒頭に、ジェームス W.ヤング氏の『アイデアのつくり方』の一節を引用しました。発想法に関する古典的作品と言われています。著者自身、広告業界の人ですし、序文を寄せたウィリアム・バーンバック氏も同じく広告業界の人です。広告業界では研修時に発想法について学ぶ機会もあると聞いたことがありますので、読まれる方も多いのかと想像します。

著者は、アイデアをどのようにして発想し得るか、その方法について、公式化したり、発想する技術があるのではないか?といった仮説を立てます。そして、「アイデアは新しい組み合わせである」という見地に達します。この原理は今の時代でも、識者によって語り継がれています。

 

何かを考えるときには、まず既存のアイデアが自分の頭に入ってきて、それが組み合わさって「新しい」アイデアになり、そして企画という実現可能なカタチになる。この流れで知的作業が進んでいくようです。

/『考具』(加藤昌治著)

 

新しいアイデアは、世界のアイデアとあなたのアイデアをかけあわせた(×)ところから生まれます。あなたが<アイデアのかけ算>の達人になれますように!

/『アイデア×アイデア』(田口元著)

 

そういった意味で、ヤング氏も書かれていますが、原理原則に気付くことが重要なのだと感じました。「アイデア」ベースのネットサービスはこの10年間でも実に多くリリースされてきたと思います。最近の日本でも話題に出ることの多い、Facebookやザッポスの前身サービスも「アイデア」ベースでした。日本でも例えば美人時計」(cf.「美人天気」)などがあると思います。こちらも、「美人」(男女共に興味対象)+「時計(天気)」(日常的に利用されるもの)という既にあるものの組み合わせとなっていますね。

 

『世界が恋した美人時計 大ヒットサービスが生まれたヒミツ』(中屋 優大,橋本竜著)という書籍に、サービスの成立背景が書かれています。

「美人時計は、思いつけば誰でもできた」

「流行ったのはまぐれだよ、運がよかったね」

そう耳にタコができるくらいに言われました。確かに運には恵まれていましたが、運は流行るところに訪れるもの。その運に気づくことができるか?摑まえられるか?摑まえて活かした結果が、よくみんなが口にしている運が良かったということ。

/『世界が恋した美人時計 大ヒットサービスが生まれたヒミツ』(中屋 優大,橋本竜著)

 

確かに、自分では思いつきそうで思いつかなかった、もしくは思いついたが実行に移せなかった、結果を出せなかったサービスで他者に先を越されたとき、一瞬悔しいと思う感覚は誰しもにあると思いました。

しかし、イケダハヤト氏の実行スピードが価値になる時代というコラムに目を通して、万が一悔しいと思うことがあっても、これは納得するなと思いました。「アイデア自体にもはや価値はない」という考え方です。10年くらい前に、「情報(化)社会」と言われて「情報がお金になる」時代がありましたが、今では情報自体は無料が増えて価値が薄くなったようなパラダイムシフトが、今目の前で起こっているのですね。アイデア出しのフェーズで悔しがっている余裕はない筈です。

 

先の、『アイデアのつくり方』の中で、ヤング氏はアイデア生産の過程、もしくは方法を5段階に分けました。その5番目のフェーズ、「現実の有用性に合致させるために最終的にアイデアを具体化し、展開させる段階」について書かれた以下の記述は、アイデアを形にする仕事を遂行する上で重要な考え方だと思いました。

ほとんどすべてのアイデアがそうだが、そのアイデアを、それが実際に力を発揮しなければならない場である現実の過酷な条件とかせちがらさといったものに適合させるためには忍耐づよく種々たくさんな手をそれに加える必要がある。

/『アイデアのつくり方』(ジェームス W.ヤング著)

アイデアを思いついて披露し、それで満足して留まってしまっては、形にすることができずに、いわゆる「ジャストアイデア」(思いつき)で終わってしまいます。

そう考えると、せっかくヒット商品、市場に受け入れられるサービスの原案になったかもしれないのに、上司に一度ダメ出しされたからとか、周囲の協力を求められなかったり、用途をプレゼンしきれなかったり、スピード感を持って動けなかったり、まさに「仏作って魂入れず」ではありませんが、最後の仕上げの部分で挫折してしまって世に出なかった幻のサービスなどもあるのかもしれませんね。

 

「アイデアを新たに生み出す」という創造行為には、当事者意識や目的意識、使命感などの基本的なマインドはもちろんのこと、アイデアの数自体もそうですが、一見無理そうなところにも突破口を見出して思考停止に陥らない、ブレイクスルーの思考が求められているのだと感じました。

 

特に管理職以上になると、「常に結果を出すこと」を求められることが増えるかと思いますが、それは、「壁にぶつかる=突破しなければならない」機会が増えることと同じことかとも思いますので、管理職にとっては問題解決思考やしくみ化と同じくらい、スピリチュアルな要素も重要になってくるのかもしれません。

 

今期第11期、8月には、当社設立10周年を迎えます。お客様を含め、市場から求められてくる内容は一層難しいものになっていくと思うのですが、今期当社の経営テーマ、「全員アドベンチャー」によって挑戦するスタンスを磨きながら、サービス・イノベーションを起こせるようなアイデアを全スタッフで出し合い、結果を生み出していけるような組織を目指します。