CS本部が取り組むWebサイトの品質管理(生産管理のQCDS)のご紹介(一部) ~米Appleスティーブ・ジョブズCEO退任のニュースで連想したこと~
投稿者:小川 悟
2011/09/18 14:17
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フィールディングのCS向上への取り組みは、当初「障害半減」や「サイクルタイムの短縮」をテーマに始まった。そして、第二段階に入ったとき、「CSマインドの向上」を正面からテーマに掲げ、「サービス窓口における接客」や「電話応対」を重視するに至っている。
/『サービス品質革命 「顧客とともに、CSを超えて」NECフィールディングの挑戦!』(高橋安弘著)
先月8月24日の米Apple社スティーブ・ジョブズ氏のCEO退任のニュースは、日本でも様々なメディアで採り上げられましたね。
直前のニューヨーク株式市場で、米Apple社の時価総額は一時3430億ドルに達し、エクソンモービル社を抜いて世界一の企業になった矢先のことでした(ジョブズ氏退任のニュースで下落しましたが)。また、Apple社の現金残高は、米国政府よりも多く所有していたと言います。
まだApple社の業績が悪かった1996年のApple社復帰後から僅か15年で世界一の企業にまで押し上げてきた、言うまでもなく後世に名を残す凄腕経営者の一人だと思います。
cf.
・アップル、日米の96年度業績を発表(「PC Watch」,1996年10月17日)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/961017/apple.htm
・Appleは米国政府より“金持ち” 現金残高が上回る(「ITmedia ニュース」,2011年7月29日)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1107/29/news058.html
スティーブ・ジョブズ氏は、以前も軽く触れましたが、マイクロソフト会長のビル・ゲイツ氏や、Google会長のエリック・シュミット氏、「World Wide Web」(WWW)の仕組みを考案したティム・バーナーズ=リー氏などと同じ1955年生まれですが、この年は今になって思えば、PC/インターネット業界に大きな影響を及ぼすこととなる偉人を多く輩出した年だったのだなと思います。
Apple社が近年リリースしてきた製品群を振り返ってみても、インターネット業界の垣根を越えて、市場に対して大きな影響を及ぼしてきたと感じます。
cf.スティーブ・ジョブズが生み出したアップル製品を振り返る(「ギズモード・ジャパン」,2011年8月30日)
http://www.gizmodo.jp/2011/08/masterpieces-of-jobs.html
私も以前、このコラムの中で、iPhoneを購入したときに期待した体験について3点挙げたものでした。
1. クラウド(コンピューティング)への理解のための入門機としてのスマートフォン体験
2. UI (User Interface) 、UX(User Experience)、インタラクションデザイン等の理解のための体験
3. メディア(特に、広告媒体として)の可能性について消費者としての体験
小難しく書いてしまったかもしれませんが、これらおそらく多くの消費者がイメージするユーザー体験に対する期待は、(iPhoneやiPadなどが他のApple社の製品コンセプトと異なり全く新しい概念・設計で作られたものであったとしても、)それまでのApple社が意識してきた「カスタマー・エクスペリエンス(顧客経験価値)」によって育てられてきた消費者の感性を刺激した結果の所産とも言えるかもしれません。
分かりやすく言い換えれば、消費者が購入前に「なんだかよく分からないけど、きっとすごいものに違いない」と感じている状態とでもなりましょうか。
そんなApple社、すごいのは業績や製品ラインナップだけではありません。
実は、「ACSI (American Customer Satisfaction Index: 米国顧客満足度指数)」という米ミシガン大学ビジネススクールが開発した顧客満足度調査の、2010年のブランド別顧客満足度調査(パソコン分野)ではApple社が過去最高値を記録し、7年連続で1位となっています。
私も以前にApple製品を購入した際にサポート窓口を利用したことがありますが、勉強になる対応が多かったと記憶しています。米Apple社だけでなく、日本の窓口対応も素晴らしいと感じました。
このように、Apple社というのは、(一口で語れるものではないですが)製品に対してもサービスに対しても追求をし続けてきた企業なのだなという印象を受けます。
改めて、スティーブ・ジョブズ氏が生み出してきた付加価値のスケールの大きさには圧倒されるばかりですが、もちろんいくらワンマン経営だったとしても、一人で何もかもを作り上げてきたとは考えにくいですね。
トヨタ自動車で言えば大野耐一氏、松下電器産業(現パナソニック)で言えば中尾哲二郎氏、ソニーで言えば黒木靖夫氏といったように、経営者を陰で支えた技術者やデザイナーというのは、その分野を専門としている人以外からはなかなか見えにくかったりするものです。
Apple社の場合はどうでしょうか?
切り取る断面によって想起される人物は変わってくると思うのですが、ここではアラン・ケイ氏とドナルド・ノーマン氏を挙げてみます。
アラン・ケイ氏は、通称「パソコンの父」と呼ばれていて、1970年代に現在のiPadに近い「Dynabook」という構想を描いた学者で、これが後にスティーブ・ジョブズ氏がMacintoshを生み出すきっかけとなったと言われています。ちなみに東芝の「ダイナブック」は、これを由来としています。
一方、ドナルド・ノーマン氏は、著書『誰のためのデザイン? 認知科学者のデザイン原論』などで有名な認知科学者で、Webサイトのユーザビリティ研究者として有名な、ヤコブ・ニールセン氏(cf.「ニールセン博士のAlertbox」/株式会社イード運営)と共にニールセン・ノーマン・グループという会社を設立しました。
このご両名には、一時、米Apple社でフェロー(特別研究員)として働いていたという共通点があります。
さて、前置きが長くなりましたが、ここで当社で提供しているWebサイトの品質管理の一部をご紹介させて頂きます。
あることをしたのに一見なんの結果も起こらないと、その行為がなんの効果ももたなかったかのように結論しがちだ。そこで、もう一度やってしまう。
/『誰のためのデザイン? 認知科学者のデザイン原論』(D.A.ノーマン著)
これは先に紹介した本からの引用ですが、こういった経験ってたまにありませんか?
Webサイトで例えると、だいぶ昔からよくある問題ですが、メールフォームの送信ボタンや、ECサイトの購入(決済)ボタンを2回押してしまう行為等です。画面が切り替わるのが遅かったり、送信中であるという何かしらの表現が表示されないと、ユーザーは「きちんとボタンが押されて(クリックできて)いなかったのかな?」と勘違いして再度押してしまう。そうすることで、2通同じメールがいってしまったり、場合によっては重複決済されてしまったりしてしまうというものです。
こうしたWebサイトのコンバージョン(成約)に直結するような重要かつ、ヒューリスティックなアプローチで解決できることに関しては早くから整備をおこないました。広義で言えば、「情報デザイン」、「インタラクションデザイン」、「ユーザーエクスペリエンスデザイン」に括られる分野の話なのかもしれませんが、狭義で言えば、例えば「EFO(Entry Form Optimization=エントリーフォーム最適化」といった施策があります。
以下、当社の公式サイトのお問い合わせフォームをご覧ください。
https://www.freesale.co.jp/inquiry/form01/fmail.cgi
最初の設問のチェックボックス部はクリックすると背景と色差のある色を表示させてクリックされたかどうかを分かりやすくしてあります(iPhone版も同様)。フリガナも情報として頂きますが、ご担当者名を入力するとフリガナが自動反映されるようになっており、極力入力される方のストレスを減らすようにしています。半角数字で入力頂きたいところは、本来IMEコントロールを行い自動的に半角数字モードに切り替えたいところですが、様々なブラウザに対応させるために、カーソルを外すと全角数字で入力したものでも半角数字に自動変換されるようにしています。入力漏れがあった際にも分かりやすいようにしてあります。
他にも、見た目には分かりませんが、制作者視点で工夫がしてあります。例えば、メールフォーム上で実際に表示されている設問項目名と、メールが送られた際に管理者に届くメール内の項目名とが一致するようにシステム化しているので、制作者のミスで不一致となるようなことはありません。
皆さんの会社のWebサイトのメールフォームはどうなっていますか?
そのメールフォームを使用する人が、どれくらいインターネット利用に熟練した方が主となるのか分かりませんが、なるべく手間や疑問は与えたくないですよね。
当社ではこのメールフォームを「Fmail」と名付けて自社開発しました。
毎月100サイト近くのWebサイトを制作・納品しておりますが、その影響を考えると、他社が配布しているメールフォームプログラムの企業ライセンスを取得して提供したり等他社依存となったり、Webサイトの制作者に個人依存した設計となっていると、お客様に対してより良いものが提供できない可能性があるからです。
また事故が増えるということはそれだけ対応に要する時間がかかるということで、結局は当社側に負担があるのはもちろんのこと、巡り巡って既存のお客様に提供でき得る時間を削ってしまうことになるので、予測できる事故(不良)が出ないような仕組みにすることは大変重要だと考えています。
お客様のITシステムで故障が起きた場合、速く解決して怒るお客様はいない。そして、コスト面からは、早く修復すればサービスにかかるコストはそれだけ安くなる。CSの向上と業績の向上は、両立するというよりも、ダイレクトにリンクしているのである。キーワードは「スピード」である。
/『サービス品質革命 「顧客とともに、CSを超えて」NECフィールディングの挑戦!』(高橋安弘著)
もちろん、納品前には機能面でエラーがないかどうかチェックをする専門工程を設けています。
上記はCS本部内の暗黙知を共有するための社内向けポータルサイトのキャプチャーです。
以前にこのコラムで書いた、リクルート社の「ナレパラ」に想を得て開発・運用を開始したものです。
ここで紹介しているページの内容ですが、納品前チェックの工程で、QC(Quality Control=品質管理)チームの専属スタッフが、決まった項目を検査していくのと同時に修正を行います。検査合格したWebサイトは、お客様への納品時に送付されるWebサイトデータが入ったCD-Rジャケット部に添付されるチェックシートにチェックが入る流れとなっています。
・ヒューリスティック評価法の99%は間違っている? /HCD-Net通信 #15(「Web担当者Forum」,2009年8月19日)
http://web-tan.forum.impressrd.jp/e/2009/08/19/6058
提供するWebサイトの規模や予算の都合もあって、一般のユーザーに設計上の問題を指摘してもらうユーザーテストまではおこなっていませんが、上記のように定期的に品質管理チームからWebディレクター側へフィードバックを返すことで、同じミスを繰り返さないような工夫をしています。
他にもいろいろ書きたいことはあったのですが、長くなってしまうので、この辺で終えたいと思います。
このようにして、当社CS本部では、「生産管理のQCD」として、ISO9000やプロジェクトマネジメントの考え方の基本(cf.「PMBOK(Project Management Body Of Knowledge)」)などにもあるように、製造業とは異なるものの、QCD――、すなわち、品質 (Quality)、コスト (Cost)、納期 (Delivery)が回るように各担当責任者がしっかり管理するという方針をとっています。
また、冒頭でもApple社を引用しましたが、Webサイトも製品とすれば上記のような品質管理基準があるのは当然かもしれませんが、Webサイトが難しいのはその後の運用があるということです。
もちろん、例えばiPhoneや、Webシステムのように、納品後も保守や瑕疵担保責任が発生することはありますが、当社の場合はその後も長くお付き合いをしてゆく前提でご契約頂くため、お客様がそのWebサイトから何かしらのベネフィットを得て頂かないとメリットを感じて頂けません。
乱暴な言い方をすれば、通常の製品を購入してうまく使いこなせなかったり飽きてしまった場合、高額なものなら我慢して使い続けたりするでしょうし、安価なものならそのままにしておいてしまうと思います。
企業のWebサイトとなり、保守・運用も費用対価を頂いて提供してゆくとなると、初期出荷状況が良ければそれで良いということにはならず、その後も市場変化に応じて様々なアドバイス、改善提案を続けていくことが求められてきます。
「QCD」だけ徹底していても解決されないため、CS本部ではそれらに加えて「S」についても注力してゆくこととしました。
この「S」は、製造業等で言えば「安全(Safety)」になるのですが、当社の場合は「サービス(Service)」と定義付けました。「サービス」分野についても他の業種にまで目を配れば、十分に管理、科学、イノベーションされたものが存在します。
Web業界でも採用できるスキームがあれば、当社では積極的に採用してきました。まだまだ発展途上の部分もありますが、「S」部分の紹介についてはまた機会を得た際にでも。今回のコラムはこの辺で。
企業にとって、消費者や顧客との関係を強化し、その関係を長期間にわたって維持することは、その企業と長い間取引をしてくれる消費者や顧客を増やすことでもあるので、極めて重要なことであることは言を待たない。では、企業が消費者や顧客との関係を強化したり、長期間維持したりするにはどうすればいいのだろうか。これには、企業が消費者や顧客との間で、常にリレーションシップを図る以外に方法はない。そして、企業がこの重要なリレーションシップを図る方法の一つが、電話の機能を利用したコールセンターの設置なのである。すなわち、コールセンターとは、電話を使って消費者や顧客の開拓や接触を行う専門の集中化された機能を持つ組織のことである。かくして、コールセンターは、消費者や顧客が必要なときに、気軽に問い合わせをしたり、相談したりできる機能と、企業側で任意に選んだ消費者や顧客に対して、見込み客を開拓するためのアプローチができる機能の二つの機能が統合されていることが必要であるとともに、大量にかかってくる電話に対する迅速な処理能力と消費者や顧客のいろいろな相談ごとや要求に対応していける高度な業務処理スキルを持った担当者の配置とコンピュータによる情報処理能力を備えていることが必要条件となる。
/『「顧客の声」を天の声にする会社―売りっぱなしは許されない! 花王の「消費者相談窓口支援システム」に学ぶ』(小西一生,禰津時男共著)