【ベトナム現地法人経営秘話】 21世紀は「アジアの世紀」――、正解のない問題にいかに対処し、正しい投資判断をしていくか ~「グローバルな現実」を体感できた各種ビジネスイベントへの参加レポート~
投稿者:小川 悟
2012/09/27 16:41
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わたしたちは不合理なだけでなく、「予想どおりに不合理」だ。つまり、不合理性はいつも同じように起こり、何度も繰り返される。消費者であれ、実業家であれ、政策立案者であれ、わたしたちがいかに予想どおりに不合理かを知ることは、よりよい決断をしたり、生活を改善したりするための出発点になる。
/『予想どおりに不合理[増補版]』(ダン・アリエリー著/熊谷淳子訳)
cf. ダン・アリエリー:我々は本当に自分で決めているのか? | Video on TED.com
http://www.ted.com/talks/lang/ja/dan_ariely_asks_are_we_in_control_of_our_own_decisions.html
今も日本のニュースを見ると日中韓の問題について記事が溢れていますが、扱いこそ違うものの世界中で関心を集めるニュースとなっており、ここベトナムでも記事になっていました。
ビジネスの側面で見ても、21世紀は「アジアの世紀」と言われもし、関係当事国だけでなく欧米諸国などにとっても影響がある話でもあるでしょうから、各国の報道機関がそれぞれの立場を表明しつつ相応の記事を書くのでしょう。
また、日中国交正常化40周年にあたる今年、本来は記念すべき年になる筈だったのでしょうが、別の形で歴史に刻まれることになったことは残念に思いました。
FVNのスタッフの中には、前職がベトナムにも中国にも進出している日系製造業での勤務経験がある者がおり、そういった経験から心配する声を掛けてくれる者もいました。ただ、重要な問題であると思うものの、私も含め一般的な多くの日本人が本来向き合わなくてはならない他のより重要な問題もあるわけですから、一刻も早い平和的解決を望みつつ、自分に今できること、結果を出せるものに邁進していきたいと思います。
一方、来年は「日本ベトナム友好年(日本ベトナム外交関係樹立40周年)」であり、ベトナム関連のニュースに目を通すと、だいぶ以前から予定されていたものかもしれませんが、日越の関係は再び急速に接近し始めているようなムードを感じます。
cf.
■ベトナム計画投資省と覚書を締結-日商・訪ミャンマー・ベトナム経済ミッション- – 日本商工会議所(2012年9月26日)
http://www.jcci.or.jp/news/2012/0926090000.html
■ベトナム進出の日系中小企業、今後1年で倍増―日本商工会議所 ベトナム ニュース | EMEye – 新興国情報(2012年9月27日)
http://www.emeye.jp/disp/VNM/2012/0927/stockname_0927_006/0/
■川崎市とバリアブンタウ省、経済産業分野で覚書締結 – [VIETJO ベトナムニュース](2012年9月18日)
http://www.viet-jo.com/news/nikkei/120917010009.html
■愛知県からのベトナム進出企業、今後増加する見通し – [VIETJO ベトナムニュース](2012年9月18日)
http://www.viet-jo.com/news/nikkei/120916061417.html
■ホーチミン、初の地下鉄着工 日本ODA活用 17年部分操業- SankeiBiz(2012年9月11日)
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/120911/mcb1209110504013-n1.htm
■小規模企業も海外ビジネスに活路- 調査レポート – 日本 – ジェトロ(2012年8月21日)
http://www.jetro.go.jp/world/japan/reports/07001047
■【ASEAN】日本企業の投資に3つの「広がり」 – 日本 – ジェトロ(2012年9月25日)
http://www.jetro.go.jp/world/asia/asean/reports/07001069
■米ファストフード、ベトナム進出相次ぐ、ついにマクドナルドも? – Vietnam Foreign Press Center(2012年8月27日)
http://www.presscenter.org.vn/jp/content/view/2694/59/
■ベトナムのフェイスブックユーザー増加率世界一、半年で2.4倍に – [VIETJO ベトナムニュース](2012年9月25日)
http://www.viet-jo.com/news/statistics/120924041334.html
ベトナムに限らず、ASEANをはじめ、アジアのほぼ全域にかけて注目が集まっていることを実感します。また、こうした一連のASEAN回帰の現象の裏に、外部環境の変化の影響も多分にあるだろうと思います。
単純な発想で考えると、マスコミの受け売りとなりますが「脱・中国」という側面で見ても昨今の日中関係の前からあった話ですし、当然日本だけが市場の主役というわけでなく他国でも動きが出ているようです。
それには中国の人件費高騰もそうですが、世界的なコンサルティングファームによる未来予測、自国側での優遇税制や規制緩和等なども影響しているのかもしれません。
こうしたことは生産拠点が市場へと変化していく過程で、どの国でも起こり得ることかもしれないと想像しました。逆に言えば、生産拠点としては厳しいが市場として捉えて売りに出る際には追い風という見方もあるかもしれません。
当然、中国は一つの省が日本の人口と同じくらいの規模だったりするところもあるので一口に「中国」は語れないですし、中国がダメでベトナムが良いとかそういった短絡的な発想ではなく、自社や自社の未来にとってどのような判断をするのが「より良い選択」になるのかということを考えさせられる機会が増えてきました。
それから、当事者でない人から見ると「人件費」と言っても「平均給与」しか気にならないことも多いかもしれません。しかし実際に進出企業が支払うコストとしては給与以外にも法人税・個人所得税(会社負担の場合)や社会保険料もそうですし、その他地代家賃・光熱費なども含め、いっぱいあります。
cf.
■「日経ビジネス」(2012年5月28日号) 特集「徹底予測2030年のアジア どこで作り、どこで売るか」
■「週刊東洋経済」(2012年9月15日号) 第2特集「アジアでの成長こそ成功のカギ|どの国でビジネスを強化すべきか アジア完全データマップ」
■中国「世界の工場」終焉か? 日本や米国企業の撤退・縮小進む : J-CASTニュース(2012年4月28日)
http://www.j-cast.com/2012/04/28130178.html?p=all
■中国から韓国企業が撤退 政府の優遇策で|大紀元日本(2012年9月8日)
http://www.epochtimes.jp/jp/2012/09/html/d67569.html
■日本側負担は最大580億円 中国社会保険法施行で大打撃|inside|ダイヤモンド・オンライン(2011年6月28日)
http://diamond.jp/articles/-/12888
■【必読!中国ビジネス】第44回「外国人駐在員の社会保険加入問題」(上)- SankeiBiz(2012年3月26日)
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/120326/mcb1203260501004-n1.htm
ここベトナムでも2011年に最低賃金の引き上げが2回おこなわれ、2013年にもさらに引き上げられると言われており、今年は社会保険料率が上がりました。
実際に保険料を負担する立場にならないとなかなか意識できないものかもしれませんが、企業として負担して、外国人駐在員としての自身の負担額も増えるとなると、その分を商品やサービスの価格に単に上乗せするだけというわけにもいかず、じわじわと締めつけられていく印象もありますが、雇用するスタッフ数が多い企業(例えば工場や労働集約型企業)であればより影響は大きいと想像しました。
21世紀は「アジアの世紀」とは言うものの、「チャンスだから進出する」のと「日本が厳しいから進出する」のとでは置かれた状況も違いますし、その後取るべき戦略も変わってくるでしょう。
殊企業の海外進出一つをとってみても、何が正解で何が正しい投資判断なのか、全ての企業に共通する普遍的な法則もあれば、時代の流れによって、企業によって、また人によっても異なってくるので一概に判断はできないと思います。
さて、前回は弊社フリーセルベトナム(以下、「FVN」)の初の社員旅行の件について書きました。今回は、私が直近参加したビジネスイベントについて書きたいと思います。多くの国の方々と懇親を深めるという機会が今まで全くと言っていいほどなかったので、大変新鮮な体験となりました。
以前にも何度か書いていますが、ベトナムは「NEXT11」(または「VISTA」)の1か国に数えられ、昨今改めてアジアやASEAN諸国に対する日本からの関心が日増しに高まっていますが、これは日本だけに限ったことではないようです。そもそも「NEXT11」という呼称自体が日本発の概念ではありませんし、荒っぽい言い方をすれば世界中からの関心が高まっているのではないかと感じています。
テレビ番組でも新聞でも雑誌でも、関連した特集が増えてきたようにも感じます。私の立場や視点から見える範囲や気付きを得られるレベルは限られていますが、せっかく今のような時代にベトナムでビジネスができているのだから、少しでも感受性を鋭くして受容できるものを増やしたいと考え、昨今幾つかのイベントに参加してきました。
――8月8日には、ホーチミン日本商工会(JBAH)主催の「第2回アジア各国商工会との交流会」に参加してきました。
香港、中国、台湾、韓国、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピンの在ホーチミン各国商工会との共催イベントでした。
ホーチミンに日本商工会があるのと同様に他の国々の商工会もあって、その会員企業の方々が集まって他のベトナム進出企業同士で懇親を深めるという趣旨のイベントでした。
在越企業は、日本やベトナム国内企業以外にもアメリカやカナダ、フランスの企業なども参加されており、参加者は英語で交流を深めていました。
私の拙い英語力では自社の事業内容の簡単な説明と、相手側のビジネスの内容を聞く程度しかできませんでしたが、海外進出をしたばかりの私としては(当たり前ですが)「ベトナムに商機を見出して進出し市場を形成、同時に消費者となっているのは日本企業だけでない」ということを改めて実感することができました。
続いて、社員旅行を挟んで8月29日には、「第1回Samurai Venture Summit in HCMC ~アジアの覇者になるために vo1.2 ベトナム ~」が開催され、私はその直後に行われた懇親会にのみ参加してきました。
株式会社サムライインキュベート代表の榊原健太郎氏が東南アジアを巡るツアーを開催、ここホーチミンにも来てくれました。懇親会には、ツアーの参加者や在越日系企業、学生の方などが集まり、懇親を深めました。
そして、9月6日には、JETRO(日本貿易振興機構)主催の「カンボジア・ベトナム南部投資ミッション」に参加してきました。
こちらは、カンボジアやベトナム南部に進出済み、もしくはご検討中の企業様が参加される視察ツアーの工程の一部に組み込まれた、在越日系企業とのビジネスマッチングのイベントで、計75社近くの企業様が集まっていました。参加された企業様はカンボジアやベトナム南部への進出に興味を持たれているというだけでなく、既に中国をはじめ、別の国々で数年の実績があるという企業も多く、ベトナムとの比較といった点で大変興味深い話も多く頂きました。
以上、今回のコラムでは、たまたまこの3つを採りあげてみたのですが、他にも大小様々なイベントが各地で頻繁に行われています。これらのことは、私がまだ日本にいたときには、知り得なかった現実です。
もちろん日本にだって同じような市場や交流会があり、ベトナムよりも規模の大きなものも多いと想像します。
しかし、私が想像する限りでは、ベトナムをはじめ他国に設立した企業が日本国内で交流を深め合うようなイベントが行われることはあまり考えにくいです。日本で行われるとことがあるすれば、海外に進出しよう!という目的や関心を持った企業同士の交流会、あるいはセミナーが開かれる方が自然です。
私も進出前に何度か関連セミナーに行ったり交流会に参加したこともありましたが、今感じているような感覚は感じることができていなかったと振り返ります。
情報というのは常にこの世の中に溢れかえり、日々タイムリーに同時進行で状況は変わっていっているのに、自分自身が当事者となって興味・関心を示し、また、必要性に迫られなければ、そして実際に内側の人間にならなければ、こんなにも断片的にしかキャッチ・吸収できないものなのかと痛感したイベントでもありました。
新聞やネットニュース、テレビや雑誌などは貴重な情報源ではありますが、これらも歴史の断面でしかなく、編集者のフィルタを通してしか伝わって来ないため、情報の受け手である私たちは、その間隙を自分の過去体験に基づく価値観や前後周辺の関連記事、またWikipediaや公衆の意見によって感化されたとりあえずの持論によって補完しながら想像することしか大概はできません。しかし、それが必ずしも「現実」であるとは限りません。なぜなら見えている、または直面している「現実」が人によって違うからです。
そういえば「現実」と言えば、Amazonからのレコメンドメールの一つに、ファーストリテイリング社・柳井正氏の新刊『現実を視よ』があったことを思い出しました。
リンク先に飛んでみると、書籍の帯には「ゴールドラッシュのアジアに取り残され稼ぐことを忘れて、国を閉ざす日本人へ」とあり、確かに私も日本にいながらこうした内容を読んでもどこかで他人事に感じたり、数回の視察出張だけでは表層上の勢いをステレオタイプに語ることしかできなかったかもしれないと感じたりもしました。
ベトナムで仕事をし始めたばかりの私の場合、日本へはほとんど帰国することもないため、今となっては「現実」は日本よりもベトナムに関することの方がシェアが大きくなっています。日本から“ベトナムの現実”が見えにくかったのと同じように、ベトナムから“日本の現実”が見えにくいときもあります。
ここで言う「現実」とは何か――、小さい話ですが、例を挙げてみます。
とある週末にシンガポールやマレーシア、タイ、カンボジアに行こう!と思い立てば、1,2万円でチケットを手配し、ものの1,2時間で行けてしまうという「現実」の変化がありました。このことは私がベトナムに赴任し、改めて出張等で近隣諸国に行ったときに強く感じたことです。それまでのプライベートな旅行ではあまり意識できていなかったことでもあります。
東南アジアで長く勤務されている方や旅行好きな人からは「当たり前じゃないか」と突っ込まれる例えでしょうし、日本から出たことがない人からでさえも「だから何なの?」という話でもあるのですが、私にとってこれは大きな変化でした。
先述した雑誌の特集ではありませんが、「どこで作り、どこで売るか」といった発想が芽生えてきもします。教養の問題かもしれませんが、これらの国々を遠くの日本から見つめていても詳細が見えてこず、どの国も大差なく見えてしまっていました。実際に近づいて、中からよく見てみると、当然ながら全く異なる国々であるわけです。
先ほど「現実の変化」と書きながら、すぐに改めるのも変な話ではありますが、厳密に言えば「現実は変化していない」ですね。
これら近隣諸国へはずっと前から「1,2万円でチケットを手配し、ものの1,2時間で行けてしまう現実」がありました。私が日本からベトナムに生活やビジネスの拠点を移動させたことで、私にとって現実が変化したように映っただけだったわけです。
――先の『現実を視よ』の帯には続きがありました。
「あなたが変われば、未来も変わる」
最後になって今までの話をひっくり返すのも何なのですが、自分自身が常に変化して成長し、現実を正確・公平に把握して、その上で多くの情報を得て、そこまでやってようやく「正しいだろう判断」ができるようになるのかと思います。逆に言えば、そうした努力を抜きにして、思いつきの判断や感情だけで正解を導いたり、問題を解決しようとしたり、まして正しい投資判断をするというのはできませんね。
幸い、私にとってベトナムは、ベトナムという国そのものが激しく変化している真っ最中なので、好むと好まざるとに関わらず、自身も変化を楽しんでいける環境に置かれていると感じています。これからもどんどん変化して、より良い判断ができるようにしていきたいと思います。
それでは引き続き宜しくお願い致します。