【ベトナム現地法人経営秘話】 品質向上への取り組みの中で感じた課題 ~ベトナムでコーヒーを飲みながら考えた「想像できないものは、創造できない」~
投稿者:小川 悟
2012/12/27 17:34
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品質を上げる事が国際的なマーケットで売る上での鍵です
/東アフリカファインコーヒー協会 サミュエル・カマウ専務理事
「おいしい豆を探して! ‐アフリカのスペシャルティコーヒー‐ – インターネット放送局 – テレビ番組「世界は今 ‐JETRO Global Eye」 – ジェトロ」より。
お客様、お取引先様はじめ、関係者の皆様、今年も大変お世話になりました。
私にとって2012年という年は、生まれて初めて、1年を通してベトナムで仕事・生活をした年となりました。
また、今のオフィスが完成し、スタッフの採用を開始したのも、ちょうど1年前の12月上旬からのことであり、感慨深い年の瀬を迎えることとなりました。そして、本当に周囲の方々に支えられた1年となりました。この場を借りて感謝申し上げます。
さて、今回は本年最後のコラムとなります。
■ベトナム現地法人 事務所移転のお知らせ|株式会社フリーセル ニュースリリース
http://www.freesale.co.jp/news/release/fvniten.html
まず、上記、当社ベトナムオフィスの移転のお知らせとなります。
フリーセルベトナム(以下「FVN」)の設立は2012年3月ですが、今のオフィスが完成したのが2011年12月初旬。あれから1年、スタートアップ期に大変お世話になった今のオフィスとも、本年31日を持ってお別れになります。
今後の体制強化のため、親会社側で増床移転の決議が取れ、年明け早々には新しいオフィスへと移転致します。移転の件については、次回のコラムでお話しようと思います。
ベトナムでは、この時期の祝日は通常元旦の1日だけですが、今年は31日が連休中日になったためか、政府や国営企業が休みにすることになり、お休みになる企業様も多いと思います。しかし、そうした事情によりFVNは、ちょうどオフィス移転の真っ最中で出社となります。
31日には、現状オフィスの受け渡しを行い、新オフィスへの引っ越し作業、インターネット開通確認等、2日には新オフィスとの間で受け渡し、etc……。
先日のクリスマスもそうですが、私事で言えば、年末年始など季節の雰囲気を一切感じることが出来ない慌ただしさの中で、新年を迎えることになりそうです。
そうした中、もはや私の習慣ともなっているのが、コーヒーを飲むことです。
心身ともに疲れたときの一杯のコーヒーには、五臓六腑にしみわたってゆく感覚を覚えます(笑)。
もともとコーヒーは好きで、仕事中はもちろん、帰宅後もよく飲みます。とは言っても、コーヒー豆に詳しいわけでもなく、通な淹れ方・飲み方をしているわけではありません。
2012年最後のコラムでは、ベトナムで自分の好きなコーヒーを飲みながら思い出したエピソードを交えつつ、「品質」に対する思いを書いて締めくくりたいと思います。
「ベトナムをただのコーヒー原産国に留まらせてはいけない。焙煎、加工、輸出までを一貫して行うことが出来るコーヒー大国となる必要がある」
/「ベトナムのコーヒー王、「チュングエンは邁進する龍となる」 – [VIETJO ベトナムニュース]」(2012年8月26日)より。
まず、ベトナムでのコーヒー事情として、私の知る範囲について少し触れておきます。
ベトナムは赤道近く、いわゆるコーヒー豆の産地として適した「コーヒーベルト」と呼ばれる地帯に位置しています。そして、コーヒー豆の生産・輸出量はブラジルに次いで世界第1位、2位を占めています。
日本でレギュラーコーヒーとしてよく飲まれる品種は「アラビカ種」ですが、ベトナムでは「ロブスタ種」というもの。
正直、日本人にとっては好き嫌いが分かれる味かと思いますし、オーダーするときに何も言わないと――、あるいは「ブラック」と伝えても「ノンシュガー」と伝えても(伝わらずに)、ものすごい甘いシロップ入り、あるいはコンデンスミルク入りのコーヒーが出てきて面食らうことがあるかもしれません。
しかし、こちらの生活に慣れてくると、ブラックコーヒー好きの私としては、あのエスプレッソのように濃いコーヒーが病みつきになってしまったものです(当然砂糖なし、ミルクなし)。
皆様にもご想像頂けるように、ベトナムでよく目にすることのあるコーヒーの写真をアップしておきます。
現状、ベトナム国内最大のコーヒーチェーンは「TRUNG NGUYEN COFFEE」、インスタント・コーヒーのベトナム国内シェア1位は、Nestle Vietnamと言われています。
その他のコーヒーチェーンだと、昨今フィリピン最大のファーストフードチェーンであるジョリビーが50%出資した「HIGHLANDS COFFEE」をはじめ、外資系でも「Coffee Bean & Tea Leaf」(米)、「Gloria Jean’s Coffees」(豪)、「illy」(伊)などが進出済みで、日本と変わらないコーヒーチェーンの光景が見られます。
そして、ついに先日には、「Starbucks Coffee」(米)が進出するという内容のニュースも発表されました。
cf.
・上半期のコーヒー輸出量、ベトナムが世界トップを維持 – [VIETJO ベトナムニュース](2012年8月9日)
http://www.viet-jo.com/news/statistics/120806024317.html
・スターバックス進出、コーヒー戦争に火がつくか / NNA.ASIA(2012年12月11日)
http://news.nna.jp/free/news/20121211icn014A.html
・スタバ参入、激しさ増すコーヒー市場 – HOTNAM!ベトナム最新情報(2012年3月29日)
http://news.nna.jp/free/news/20121211icn014A.html
・ファストフード市場が拡大へ:米ジョニーロケッツなど進出計画 / NNA.ASIA(2012年8月10日)
http://news.nna.jp/free/news/20120810icn002A.html
・即席コーヒー首位はネスレ=ニールセン / NNA.ASIA(2012年7月11日)
http://news.nna.jp/free/news/20120711icn015A.html
・世界のコーヒー消費量 TOP30 トリップアドバイザーのインフォグラフィックスで世界の旅が見える
http://tg.tripadvisor.jp/coffee/
・社団法人全日本コーヒー協会
・International Coffee Organization
・日本サステイナブルコーヒー協会
――そして、パブロフの犬ではないですが、コーヒーを飲みながら私はいつも思い出し、考えてしまうことがあります。
それは、『おいしいコーヒーの真実』という映画と、以前に「ガイアの夜明け」(2009年12月8日)で放映された、特集「食の攻防2009(1) コーヒー戦争~一杯に賭ける男たちの闘い~」で感じた自身の気持ちのことです。
一言で言えば、前者のテーマは「フェアトレード」、後者は「サスティナブル(持続可能)」です。
なぜ、Webサイト制作の話でコーヒー農園の話を出すのか?
と疑問に思われる方もいるかもしれません。
これは私が勝手に強引に紐づけて考えてしまっているだけの話なので、論理的に破たんしている点もあるかもしれませんが、私事ですのでまずは共有させて下さい。
私が今見ている部門はWebサイト制作を行う部門であり、生産という括りで見れば、何か似た印象を受けることがよくあったのです。
生産国で生産したものが、生産国で消費されるとは限りません。
むしろ、グローバリズムの観点で言えば、発展途上国で生産し、先進国へ輸出し消費されるという構造が一般的かと思います。
その際、第一次産業にあたるコーヒー農園では、原材料となるコーヒー豆の出荷価格が安価なのに比べ、先進国で消費される際に大きな付加価値が付いて、つまり「安価だったコーヒー豆」が「高価なコーヒー」となり、消費されることになります。
このフェアトレード的側面、また、産業構造上のヒエラルキーはコーヒー農園に限った話でもないため、それはさておき、私が印象的だったのは、「ガイアの夜明け」に川島良彰氏が出演されており、訪問先のコーヒー農園を取材したときの内容でした。
木々の手入れがあまり良くないというのは想像の範囲でしたが、彼らが飲んでいたコーヒーの飲み方です。精製・焙煎前のコーヒー豆を鍋に入れて直火にかけ、湯だった煮汁を飲んでいたのです。実際、テレビで編集されてしまうと程度の問題が正確に分からないということはありますが、これには正直驚きました。
「なぜ、コーヒー豆を専門に作り続けてきた生産のプロが、多くの消費者が本来どのように消費しているかを知らないのだろう――?」
もちろん、世界中の生産者全てがこのような状態であるわけはなく、発展途上国の一部生産者と想像してはいます。
このサプライチェーン全体を見渡した際に、生産者がコーヒーの正しい淹れ方・飲み方を知らないまでも、消費者が求める品質で出荷できるのであれば問題はないのでしょうが、番組の中では「品質はもっと改善できる」という編集内容になっています。
そして、そのことに早く気が付き改善しなければ、いつまで経っても、自身の労働や成果物が安価に売られていくことが永遠に続くということでもあると考えてしまいます。
そう考えていくと、実際の使われ方を知った上で作ることで、生産者だけだと気付きにくい点に気付くことができる、つまり品質が向上するきっかけになりそうであるとも思えてきます。
ベトナムで生産・流通する物やサービスの品質について、悪いという話は聞いたことがあっても、良いという話を聞くことがなかなかありません。
何か構造上の問題があって、あるいは、一部の心ない人のために粗悪品が流通してしまっていることを除いても、現地企業とやり取りしているときに気になる点は多いです。
ローカルの料理店などでも、ウナギなりスッポンなり高級食材を使う料理は多いのですが、おそらく日本人の多くは、見た目や調理方法的にあまり箸を付けることは積極的に行われないだろうと想像しています。
これを「文化の違い」と言ってしまえばそれだけなのですが、ベトナムなど輸出や外国人消費を増やしていこうとしている時期に、「自国の人々は不満がない、あるいは好きでそうしている」という発想に囚われ続けていると、いつまでも自国でしか消費されず、先進国での消費が伸びていかないようにも思われました。
これら、粗悪品・サービス、創意工夫の欠如というかズレ等について、もし悪気があってやっているのではないとしたら、やはり人は「想像できないものは、創造できない」のだと――。
これを会社という社会の縮図に置き直して考えると、殊IT業界で言っても前述の「高級食材」は巷に溢れ返っているわけですし、それを消費者にウケるように加工・販売できていないことがあるとすれば一考の余地はある筈です。
そのためには、より高付加価値なものを開発・提供していくために、今想像できないものを想像できるようにする努力が一層必要になってくるのだと考えています。
読書やセミナー参加、外部との接触、自分(自社)より上流であるものとの接点を増やす、そして自己研鑽(専門分野以外の学習)等が代表的なものであると思います。
2012年は、FVNの設立初年度ということもあり、親会社側から制作者2名に入れ替わりで来てもらいました。
FVNのベトナム人スタッフの中には、親会社スタッフよりも技術力が高い人はいると思います。
しかし、どんなに技術力が高くても、先ほどの論理で言えば、日本でどのように消費されているかが分からなければ消費者が喜ぶ成果物を作ることは難しいでしょう。
とは言っても、ベトナム人技術者全てが、日本のことを知り尽くしているということはありません。
日本でも社会人経験がほとんどないスタッフであれば、想像ができないことも多いでしょうし、教える側にとってみれば、人によってはストレスに感じるときもあるでしょう。まして、日本語も通じないとなると少なからず楽ではありません。
2012年のフリーセル(親会社)、及びFVNは、従前からのオフショア開発経験から引き続いて、そうした課題に取り組んできた1年であったと思います。
関係各位には多々お世話になり、改めてこの場を借りて心よりお礼申し上げます。
来年はオフィスも変わり、心機一転頑張っていきますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。