【ベトナム現地法人経営秘話】 ベトナムで会社設立後、2回目のオフィス入居・内装工事の失敗談、悪戦苦闘エトセトラ ~自社の「ラストワンマイル」はどこか?~

投稿者:小川 悟

2013/01/14 23:44

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今の時代、商流の最後、ラストワンマイルを担っている我々にこそ大きなビジネスチャンスがあるのだと。

/『ラストワンマイル』(楡周平著)

 

2013年、新しい年になりました。今年もどうぞ宜しくお願い致します。

さて、今年の干支は巳年。SBI北尾吉孝氏が、年頭所感を書いた日記の中で恒例の解説をしていらっしゃいます。

 

「へび」と聞いて私がイメージしたのは、「ウロボロスの蛇」という古代の紋章です。

へびは元々、その強い生命力から「永遠性」などが象徴されてきましたが、そのへびが別のへびの尾をくわえ、そのへびがもう一方のへびの尾をくわえた円環構造を示すことで、古代人は永遠性に拍車をかけた状態を象徴したかったのかもしれません。

 

なぜそのようなことを連想したのかと問われれば、その根拠について、こじつけて言えば、あるにはあります。

前回のコラムでも軽く触れましたが、当社フリーセルベトナム(以下「FVN」)のオフィスを、この度、1月2日付けで移転しました。

旧オフィスは、2011年12月に完成したのですが、新オフィスは2012年の12月に完成しました。始まりと終わりが同じ12月ということで、勝手に「永遠性(持続可能性)」の縁起を担いでおります(笑)。

 

さて、今回のコラムですが、いつも「うまくいっています!」系のタイトルだとあまり読んでもらえず、失敗談や苦労話の方が興味を惹くかと考えこのようなタイトルにしてみました。――というのは半ば冗談ですが、今回は、ベトナムでのオフィス移転にまつわる幾つかの失敗談と悪戦苦闘のエピソードを交えながら、今年の抱負などを話していければと考えています。

 

 

以前の4倍の広さのオフィスに拡張したことで、家賃もバカになりませんから、今後必死で仕事をしていきます。

FVNの新オフィスは、「MINH LONG TOWER」というビルに入ることにしました。

 

↓FVNが入居した「MINH LONG TOWER」。左の看板にはロゴと、グローバル展開用の企業キャッチコピー(キャッチフレーズ)、「Power to your website」の文字

 

minhlongtower_s.JPG

ビルのオーナー企業にあたるMINH LONGは、1970年創業のベトナムの高級食器メーカーです。このビルには、MINH LONGの本社オフィスと店舗が入っています。

特に陶器好きというわけではないのですが、縁があるのか陶器について書くのは2回目になりますね(汗)。

 

cf.名古屋営業所開設に想う ~ものづくり大国”NIPPON”ブランドを牽引する企業にあやかりたい~

http://www.web-consultants.jp/column/ogawa/2008/03/post-7.html

 

私も試しに、どんなものか、コーヒーマグを購入してみました。

 

minhlongmug_s.JPG

税込88,000VND(当時のレートで、約375円)と、比較的安価なマグがこの値段だし、各国への贈答用にも使われることがあるようなので、ベトナムでは割とフォーマルな高級ブランドになるのではないかと思われる。

 

ビルが完成してからまだ1,2年程度という話だったのですが、敷設している2基のエレベーターは両者が連動しておらず、入居前の視察段階から気になっていました。

出社/退社時は特に混み合います。皆、早くエレベーターに来てもらいたいために両方のボタンを押しますが、これが全ての悪循環の始まりとなります。

他人の迷惑になるからと、他方のエレベーターのボタンを押さずに我慢するも、各階止まりの動きにしびれを切らして、思わずボタンを押してしまうという悪循環をなかなか断ち切れません。

そしてこういうことは、きっと各階で起こっているのだろうなぁと想像しながら、入居後によく観察していると、案の定、エレベーターに乗っているベトナム人が、エレベーターが各階で止まりながら、誰も待っている人がいない状態を見て、英語で言うところの「Oh my god」というニュアンスのベトナム語を発していました。

つまり、多くのベトナム人がこの状態を「良し」と考えていないのですが、なぜこのエレベーターの仕様がこれで決まったのかという疑問がわいてきます。他方のエレベーターのみ住居用階に止まるため、別の仕様で設計せざるを得なかったのでしょうか?

月間延べ何人が利用するエレベーターなのか分かりませんが、こうした光景がビル完成から1,2年の間、毎日のように繰り返されてきているわけなので、今後も続いていくのかと思うと多少気が滅入ります。

 

この一件があって、以前にこのコラムでも書いた「学習性無力感」(cf.「カマス理論」)を連想したので、ある日の朝礼でこの話をしました。

「現状を受け入れることは重要だが、ただ我慢するだけが美徳ではない。悪い点に気付き、自ら改善していこうとする気持ち、そして納品前(自身の作業後)のチェックが重要だ」という話でした。

 

それから内装工事について。

当初私は日系企業に頼もうと考えていたのですが、時期的に繁忙期に重なってしまい受けて頂けず、ベトナム現地企業に頼むことになりました。

私はベトナム語を理解できず、英語でも細かいところまで話せませんので、当社スタッフに通訳として入ってもらう必要が出てきました。いわゆる「伝言ゲーム」となりますから、意志疎通については神経を使います。

しかも、私の仕事の専門は内装工事ではないし、当然造詣が深いわけでもありません。しかし、コストとしては他の仕事の何倍もかかるわけですから片手間で行うわけにもいきません。

12月はフリーセルジャパンから社員総会のMVPに輝いたスタッフの視察受け入れ等があったり諸々仕事に追われていました。結局、大みそかの31日の19時過ぎまで引っ張られた仕事となりましたが、幾つかハンドリングでミスをしてしまいました。

 

印象的なやり取りのミスがあったので、一点ここで失敗事例としてご紹介しておきます。

以前の4倍のオフィスになるにあたり、ファシリティ・マネジメントの考え方も含め(ちなみに、FVN移転前のビルにはコクヨ様が入居しておられました)、今後の事業計画に即したレイアウトを意識して設計をしました(複数企業に提案してもらいました)。

 

使用するネットワーク機器については、本社側と連動する部分は本社の情報システム部門責任者と連携を図りながら決定していきましたが、FVNオフィス内の配線については両者間で時間がとれず私の範疇となりました。

LANケーブルの規格といった細かいことまで指定したのですが、肝心の配線については指示が漏れており、配線図を確認するのが遅れてしまったのです。

 

いざ、完成が近付いて納品直前となった際に、おかしな点に気が付きました。

机の上にLANケーブルが出ていないのです。

「配線ってどうなってますか?」と内装工事業者に聞いたところ、机までは配線したが、机からPCまでのLANケーブル代は別料金となりますとのことでした。しかも、その見積もりはし忘れたので、見積もりを出し直しますということでした。

私のオーダーの内容には、前環境同様にインターネットが接続できる環境にするという配線の指示は当然していました。もらっていた見積もりの内容にはほぼ座席数に近いLANケーブルの費用が書かれており、配線図にも机まで配線が来ているように描かれていたのですが、机までの本数を書いただけと言われれば言い返す術がありません。

また、障害時の原因追求やメンテナンス性について確認したところ、床下にはジョイントがあるので問題ないということでしたが、ということは、外から見えない配線(本数)は見積もりに含まれず、外から見えるケーブルだけが見積もりに含まれる本数ということになるのでしょうか――。

しかし、机にもジョイントが付くということが机の図面自体には書かれていなかったので、見積もり段階では必要本数を分かりようがありません。PCまでケーブルが来ていなければ、有線でインターネットに繋げることができません。

 

どこまで消費者(発注者)側が細かく指示しなければならないのだろうか、これではまさに「ラストワンマイル」が欠けているではないか――。

 

と感じたものでした。

結局解決策としては、現状人がいる座席分のケーブルは内装工事業者が負担するが、増員分は再見積もりを出すということで着地しました。50cmのLANケーブルを、1人増員する度に見積もりを出してくるということなのでしょうか(当然、自作か電気屋さんで購入予定ですが)。

 

――この「ラストワンマイル」(cf.「ラストワンマイル」/Wikipedia)について触れておきます。

 

私たちの業界の仕事に当てはめて言うならば、冒頭でご紹介させて頂いた『ラストワンマイル』(楡周平著)の話を連想できるかと思います。

 

ネタばれになるのでここでは詳しく書きませんが、Web業界、または、オンラインショッピングサイトを運営する企業様なら、ECポータル運営企業によるテレビ局買収だとか、物流業者様のECサイトオープンとか、印象深いニュースが数年前にありましたね。

 

最近でも、物流業者様の送料を巡って議論が交わされたことがありました。

また、今後も回線の高速化やスマートフォンの普及(や、マルチウィンドウ・マルチデバイス化)、消費の多様化等のマクロ環境の変化で、EC事業は全体的に伸びていくでしょうし、その間には淘汰も起こって再編が起こるなど、業界関係者だけでなく興味深い対象になってくるかと思います。

 

cf.
■「ゾゾタウン」社長が暴言 ツイッター炎上、送料無料に(「サンケイビズ」,2012年11月1日)

http://www.sankeibiz.jp/business/news/121101/bsd1211011434012-n1.htm

■大衆薬ネット販売認める 最高裁「国の規制は違法」(「日本経済新聞」,2013年1月11日)

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1102F_R10C13A1000000/

■ネット通販、揺れる勢力図 アマゾンなど乱戦(「日本経済新聞」,2012年12月16日)

http://www.nikkei.com/money/features/29.aspx?g=DGXNASFZ1300S_13122012K15400

■お歳暮商戦に変化…“デジタルシニア”急増でネット通販活発化(「読売新聞」,2012年12月27日)

http://www.yomiuri.co.jp/net/news/internetcom/20121226-OYT8T00950.htm

■ラストワンマイルは誰のもの?(「日経ビジネスDigital」,2012年6月6日)

http://business.nikkeibp.co.jp/article/NBD/20120604/232936/

 

消費者から見て、送料が無料化される条件等については、各社ビジネスモデルによるのでしょうが、物流業者の方が実際に物を運んでいる事実に変わりはありません。

そして、オンラインショップで何か商品を購入した際、物流業者さんが自分の家に運んで来てくれない場合は、自分が最寄りのコンビニに取りに行くなどしなければなりません。
無料化の代償は誰かがその分を担うことになる筈です。

 

日本のように、ベトナムと比べて企業間競争が激しい市場だからこそ、このようなことが大きく話題になるのでしょうが、ベトナムではまだ多くの人が「商品はちゃんと届くの? どうやって頼むのか分からないけど」、「クレジットカード使っても大丈夫なの? 自分、まだ持ってないけど」といったことが議論され始めたばかりで、この話を共有しても是非を議論できるスタッフはいなそうです。日本でのEC(=Electronic commerce,電子商取引)黎明期を彷彿させます。

 

このようにまだ、そもそものインフラが整っていないベトナムにあっては、消費者がどのように感じるか?といったサービス業的側面にまでは意識が至っていないのかもしれません。

 

cf.再読、『クリック&モルタル』。 ~メディア激変時代、中小・ベンチャー企業の消費者コミュニケーションを再考する~

http://www.web-consultants.jp/column/ogawa/2011/02/post-64.html

 

当然、従前から書いてきたように「上から目線」は良くないですし、そういう目線で私は書いているつもりはありません。あくまでも消費者目線で書いたつもりでおり、その目線がなければサプライヤー(提供者)として独りよがりになってしまいます。

 

今年の抱負としては、文化として消費者目線に配慮が欠け気味であるベトナムにおいて、少なくとも当社FVNスタッフに関しては、もっと意識できるようなスタッフになってもらうために、いろいろ歩み寄りをしていきたいということです。

 

ベトナムは「(世界的なオフショア開発の)生産拠点」という呼び声がある一方で、「指示されたことしかできない」、「管理はするものではなく、してもらうものという意識がある」といった反面の評価もあります。

 

日本人でも、大きな組織やサプライチェーンの中の生産ラインの一工程として組み込まれ、目的意識なく、日々同じ仕事を作業として受け流しているだけだと、これと同じような感覚に陥ってしまうと思います。

FVNは親会社にあたるフリーセルジャパンからの仕事を中心に請けているので最終的な消費者と接することは今は多くありませんが、ジャパン側ではお客様との間の最終接点(cf.「コンタクト・ポイント」)を持った部門もあるのだから今後一層のサービス力向上を目指さなければなりません。

 

ベトナムには従属やオフショア開発等の長い歴史があるから……という説もあります。参考にしながらも、私はそういう「血」については疑うというか、変革することに挑戦していきたいと考えています。

 

cf.顧客満足度調査を実施し、コンタクト・ポイントを整備する ~「歯科受付スタッフ”対応力アップ”実践セミナー」を終えて~

http://www.web-consultants.jp/column/ogawa/2010/09/post-59.html

 

「お客様が満足するものを提供することで、付加価値を得る」という構造はどの国も同じ筈です。

当社のスタッフと面談したときも、「あなたが作ったWebサイトはいくらで売る自信がありますか?」と聞いたところ「私がフリーランスで働いていたときは、お客様は○○USDを払ってくれた」と言います。「そんなに出してくれるのですか?」と重ねて聞くと、「お客様は満足すれば払ってくれます」いうことを言っていました。

 

今、ベトナムで販売されているものの幾つかの内、品質が悪いことを知りつつ、安いから、もしくはそれしか手に入らないから購入するしかないという文化的背景があっても、スタッフ自身はその市場原理を知っている筈なのだと自分に言い聞かせていますし、その前提で接していこうと考えています。

 

ベトナム人は「言い訳ばかり」、「口がうまい」という人もいますが、エレベーターのエピソードにもあったように、自分が消費者(利用者)になるときは「言い訳」を聞いても文句を言うこともあります。結果は正直ですから、きっと伝わる筈だと考えています。

 

今、ベトナムは、トップが国を成長させてゆく、変化していくことを目標に掲げています。「大変だから経済成長をしたくない」と考えてはいないということです。

 

cf.安倍首相初外遊、米国に先立ちベトナムを含む東南アジア3か国で調整(「VIETJO ベトナムニュース」,2013年1月10日)

http://www.viet-jo.com/news/politics/130109035817.html

 

国のトップのお墨付きがあることをしようとしているのだから、決して日本からの押しつけだけではないですし、私は、そのことを自社のスタッフにも理解してもらいたいと思っています。

当然、日本のODAと似て、その国の文化やレベルに合ったやり方はあるでしょうし、強引に押し付けるのではなく、自立を促すようなアプローチの仕方はいくらでもあると思います。

「ストップゴー政策」にあるように闇雲な成長推進だけがやり方の全てではないかもしれませんが、創業期のFVNにとってやらなければならないこと、乗り越えなくてはならない壁(課題)はいっぱいあるので、一つひとつ乗り越えていきたいと思います。

 

cf.【ベトナム現地法人経営秘話】フリーセルベトナム各取材記事のご紹介、及び昨今の日本によるODA(政府開発援助)に関する記事について ~「どう伝えたかではなく、どう伝わったか」が重要だという話~

http://www.web-consultants.jp/column/ogawa/2012/05/post-78.html

 

前途多難ではあるのかもしれませんが、簡単に成長可能な環境であればどの企業も参入して競争が激化し、結局は大変になるわけなので、前途多難でない市場などはなかなか少ないと思います(cf.「ブルー・オーシャン」)。

 

奇しくも今年2013年は日本ベトナム外交関係樹立40周年の記念すべき年です。

勝手なこじつけかもしれませんが、結果を出せるように頑張っていきますので、引き続き宜しくお願い致します。