拝啓 スティーブ・ジョブズ氏

投稿者:吉田 亮

2011/10/31 19:58

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拝啓 スティーブ・ジョブズ氏

 

 

貴方が此の世から去り、一ヶ月が経とうとしています。

まだまだ世界は革新に溢れ、停滞してはおりません。

 

貴方が最も危惧していたかもしれない世界の停止は見られず、

語弊を恐れずに言わせてもらえば、

むしろ、貴方を失った事を、前向きに捉えているように感じます。

 

 

・・・知っていますか?

貴方の功績を称えて行われた追悼式典の三時間、

全員のApple社員が式典の生中継を見られるようにと、

全世界のApple Storeが閉店していた事を。

 

 

・・・知っていますか?

iPhoneアプリの制作者達が、

販売する為に心血を注いだであろう己のアプリを、

自発的に無償提供していた事を。

 

何かせずにはいられないという感情をヒトに与える力を、

確かに貴方は持っていたのだと、そう思わずにはいられません。

 

 

『海軍に入るよりは、海賊になった方がマシだ!』

 

まだMacが存在しなかったその時代、

業績が落ち、傾きかけていたAppleに戻って来た貴方は、

そう叫んだと聞いています。

 

 

『製品を作るのにマーケティングは必要ない』

 

売れる製品のために不可欠のはずのマーケティングに頼らず、

これはそういうものなんだ、という理屈で開発を進めていた、

そうも聞いています。

 

しかしその裏側には、

やはり挫折と混沌が、数多くあったことも聞いています。

 

 

Appleがもし比類無き成功を収めていなければ、

恐らく貴方は稀代のカリスマとは呼ばれず、

逆説を生業とした暴君として、名を馳せていたかもしれません。

 

 

誰かの伝記を読む時、歴史を知る時、

いつも私はとても申し訳ない気持ちになります。

何故、今なのかと。

もっと前に、知っておくべきだったのではないかと。

御多分に漏れず、

此のタイミングで、私は貴方の多くを知る事になりました。

 

去りし者を悪く言う者は殆どいません。

しかし貴方は、

巧妙な冠詞に彩られた絶大な功績に対する称賛を浴びる一方で、

なかなかどうして、雑言も未だに絶えていないのです。

 

其れは決して、貴方を否定するものではないように思います。

 

時代を作る為の犠牲、という言葉に纏めてしまえばそれまでですが、

何かを生み出す時の痛みも、何かを変える時の痛みも、

本気の貴方にとっては、些末なことだったのかもしれません。

いえ、本当は、全てを理解していたのかもしれません。

 

 

私達は、大義を抱えるべきこの業界に従事する者として、

貴方の描いてきた戦略やコンセプト、ビジネスモデル以上に、

鮮烈な覚悟そのものを学び取る必要があるような気がします。

 

 

丁度、社内で立ち上げ時だったプロジェクトが、

 

JobS

 

と命名されました。

 

 

そう名付けた事で何かが生まれる訳でも、

其れで貴方に何かを伝えられる訳でもないのですが、

2011年10月6日という日は、

何かせずにはいられない、そんな日だったのです。

 

 

敬具