年末商戦と消費キーワード ~ゲーム業界合従連衡の中で~

投稿者:小川 悟

2007/12/31 16:08

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ソニーはハードが主、ソフトが従、そういう路線です。任天堂はその逆でソフトが主、ハードが従(任天堂相談役・山内溥氏)。

/日経ビジネス 2007年12月17日号 『山内溥相談役、岩田聡社長が語る 任天堂はなぜ強い 「たかが娯楽」の産業創出力』より。

2007年12月2日は、Wii発売1周年でした。1日には新製品「Wii Fit」が発売され、年末年始を家族団欒で過ごされた方も多かったのではないでしょうか。ニュースでも2007年の家庭用ゲーム機の国内販売額が3,000億円突破の見通しということで、過去最高を更新したそうですね。ゲームと言うと、いまだ一方では良い印象がないものの、社会的地位を得ている証拠とも言えるのかもしれませんね。

この次世代ゲーム機と呼ばれるゲーム機が登場して世間を賑わすきっかけとなったのは、2005年12月10日発売の「Xbox 360」、2006年11月11日発売の「プレイステーション 3」、そして2006年12月2日発売の「Wii(発表当時は「Revolution(仮称)」)」の家庭用ゲーム機が公開された「東京ゲームショウ2005」の開幕だったかもしれません。こうした展示会でおこなわれた各社基調講演の中で、次世代ゲーム機とは何なのかについて語られ、各種メディアが記事に起こし我々消費者にまで伝えられてきました。

 

私事となりますが、私は俗に言う「ファミコン世代」に当たります。姉がいる関係で、幼少時代ゲームと言えば、ゲーム&ウォッチで遊んでいました。この「ゲーム&ウォッチ」は任天堂を語る上で外せない横井軍平氏によって世に登場したゲーム機です。1983年にファミコンが発売された後、私は既にMSXなどのゲーム機で遊んでいたクラスの友人の話を聞いている内にファミコンが欲しくなり、親にねだって買ってもらったものです。この時期最も印象に残っているのは、1986年5月27日に発売された「ドラゴンクエスト」です。発売前から「ファミリーコンピュータMagazine(ファミマガ)」、「ファミコン通信(ファミ通)」、「BEEP」等の雑誌はほぼ定期購読のようにむさぼり読んでは予習をし、発売日には近所のおもちゃ屋さんに並び、サウンドトラックもレコードやカセットテープで購入し、友人たちとゲームブックと呼んでいた分岐型ストーリーブックのようなものを作ったり、小学校のおたのしみ会では紙芝居にもしたものでした。1日何時間もプレイし、あれから20年余り経た今日でも、LV30 のときの復活の呪文が記憶にあるくらい印象的な”事件”でした。もちろんファミコン以前にもいわゆる家庭用ゲーム機はあったし、パソコンゲーム(当時はマイコンと呼んでいた)もあったし、近所の駄菓子屋さんに行けばアーケードゲーム機もありました。クラスの友人の中には、Nゲージで遊ぶものもいましたが、それでも主流はたちまちのうちに「ファミコン」になりました。そうした流れで、後のスーパーファミコンや、プレイステーションなどは購入してきましたが、今自宅に現存しているゲーム機は、「プレイステーション 3」と「プレイステーション・ポータブル(PSP)」、その他パソコン用ゲームのみとなっています。

 

また、今年1月21日に、故黒川紀章氏設計による国立新美術館が開館しました。国立の美術館としては30年ぶり5館目の開館で、私も開館したその日に行って参りました。今年7月に惜しくもお亡くなりになられた河合隼雄元文化庁長官による、文化庁メディア芸術祭10周年企画展として、「日本の表現力」という展示が行われたことがありました。アート、エンターテイメント、アニメーション、マンガを題材として、1950年代から2006年に至るまでの日本のメディア芸術について展示した内容でした。クロニクル(編年体)で綴られた、それらメディアの歴史をアンソロジー的に振り返ることができた良い機会でした。そこでも、私の人生の中におけるゲーム機の登場が、いかに大きな、生活習慣を変えるくらいの出来事だったかを思い知ったものでした。

ビジネスの世界では、こうしたファミコン世代が社会進出し、30代を迎えるにあたり、そこに新たなマーケットがあるのではないか?と各社がマーケティングに乗り出して久しいです。広告業界では、ゲーム内広告のようなメディアも出てきて、既存4媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)さえもが、競合視するほどになりました。

 

ところが、昨今の少子高齢化の波の影響か、新たな競合出現によるゲーム離れによるものなのか、供給が需要に追いついたのか分かりませんが、我々がかつて熱狂的に支持していたゲーム業界において、昨今では再編の動きが加速して参りました。

2003年 4月 1日 株式会社スクウェアを株式会社エニックスに吸収合併、商号を株式会社スクウェア・エニックスへ変更
2004年10月 1日 サミー株式会社、株式会社セガを買収後、それに伴いセガサミーホールディングス株式会社設立
2005年 4月11日 コナミ株式会社、株式会社ハドソンが発行する第三者割当増資を引き受けて連結子会社へ
2005年 9月28日 スクウェア・エニックス、タイトーをTOBで買収後、連結子会社へ
2005年 9月29日 株式会社ナムコ、株式会社バンダイと共同持株会社である株式会社バンダイナムコホールディングス設立による経営統合
2006年 2月23日 株式会社バンダイナムコホールディングス、バンプレストを完全子会社化
2006年 3月 1日 株式会社トミーと株式会社タカラの合併により株式会社タカラトミー発足
2007年11月28日 株式会社バンダイナムコホールディングス、バンダイビジュアル、バンダイネットワークスを完全子会社化

各社が生き残りをかけてというか、数年先の業界内シェアや立ち位置を考慮して、先手を打ち合う格好となったのかと思います。誰と組むか?がキーとなっていた昨今だったのではないでしょうか。 

自社にない強みを求めて、競合企業と協力して今まで以上の成果を出す――、そうした合従連衡の動きの中で、私たち消費者はただその摩擦の中で生まれる、より高度なエンタテインメントに期待して私費を投入し、恩恵を享受し、また支持してゆくことが役割となっています。

 

そうした中で、今もっとも注目されている企業が任天堂ではないでしょうか?

社員数わずか900人、国内企業時価総額では、NTTやみずほファイナンシャルグループを凌駕し、トヨタ自動車、三菱UFJファイナンシャルグループに次いで9兆5,909億円で3位、1社員あたり2億8,655万円という驚異的な売上高と安定した財務基盤(預貯金)や体質。2004年12月2日の「ニンテンドーDS」、2006年12月2日の「Wii」発売でソニーの戦略をくじき、一躍お茶の間の支持を得て業界首位に返り咲いた任天堂。今後はニンテンドーDSとWiiとの連携や、インターネットとの融合などが見込まれており、既にNTTとはフレッツ光通信網との連携を図るための協業が進められていると聞きます。通信・放送の概念を、根本から覆してしまいそうな、その強さの秘密はどこにあるのか――。

 

冒頭に紹介した「日経ビジネス」の誌面の中では、『時代を超える「娯楽屋魂」』と大きく見出しが打たれています。

任天堂の創業は1889年にさかのぼります。花札を製造する「任天堂骨牌」として創業した後、1902年に、「日本で初めてトランプの製造を行う」とあります。今ゲーム業界で注目の的となっている任天堂のスタートは、花札やトランプを製造する玩具メーカーだったのかと思うと違和感がありますが、先に引き合いに出したナムコ(有限会社中村製作所)の創業は、デパートの屋上にある木馬の製造メーカーとして、セガ(日本娯楽物産株式会社)やコナミ(エンタプライズ社)やタイトー(太東貿易株式会社)などは、戦後になって進駐軍がもたらしたと言われるジュークボックスの製造・修理、賃貸業などからスタート、ソニーは日本で初めてトランジスタラジオを発売したことで有名ですね。

任天堂は、その他のゲームメーカーと違って、玩具(ソフト)からスタートしたのでした。また、山内溥任天堂相談役へのインタビューも併載されています。山内氏曰く、「私たちのビジネスはソフトとハードが一体型のビジネスなんです」と。この発想から、コントローラーの既成概念を壊して「Wii」が創られたのか、と思いました。この発想力が任天堂の強さなのかと痛感しました。

この発想力をもって任天堂は、おそらく2007年のクリスマスを含む年末商戦ではイニシアティブをとったのではないでしょうか。親世代を味方につけた任天堂の今後のインターネット網進出にも目が離せません。PS3でも同じようにメタバース(インターネット上の仮想空間)のサービスの提供を始めていますが、インフラとしてはニンテンドーDSとWiiを合わせた方が大きいです。この2機種がインターネットを媒介として互換したとき、そこに新たなアイデアとマーケットが開拓されることでしょう。

 

電通が「話題・注目商品 2007」として発表したリリースの中では、2008年の消費潮流を、「ネタ共振消費 ?ネタでつながり、ネタではじける」と説いています。AIDMA(「Attention(注意)」「Interest(関心)」「Desire(欲求)」「Memory(記憶)」「Action(行動)」)に対する、「AISAS」(「Attention(注意)」「Interest(興味)」「Search(検索)」「Action(購買)」「Share(情報共有)」)のことを言っているようにも思います。年末の消費キーワードの中で、任天堂をはじめとしたゲーム機の機種名なども上位に入っていたかもしれませんね。

 

私たちの事業も、ハードを売って利ざやを得る商売ではありません。「Webコンサルティング」という形のないものを売っています。任天堂と一緒にすることはもちろんできませんが、まず違うのは私たちが販売する先は事業主様です。事業主様がビジネスを推進してゆく上で必要となるWeb戦略を客観的立場から構築してゆくわけです。アイデア勝負と言われれば簡単そうに聞こえますが、今までの経験則や、体系化された生産ライン、そしてクライアントに雇用された社員であるかのような当事者意識が要されます。

期待を損なわないサービスを提供するために、またより多くの信頼を得るために私たちは貪欲に努力を続けてゆく次第です。つい先日は、「オーバーチュアオンライン代理店」に登録されました。今後もより多くのお客様とお付き合いする中で、さらに高度なサービスを求められてくることでしょうから、そうした外的な刺激を常に受ける環境に身を置いて、一層高度なサービスの提供に努めて参りたいと思います。