企業理念に基づいて「年頭所感」を述べる ~「ホスピタリティ」他、CS部で大切にしている考え方~

投稿者:小川 悟

2007/12/17 09:45

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世界の常連客がいちばん期待し、リッツ・カールトンも最大の武器と自負しているもの。それはホスピタリティ精神である。

/『週刊ダイヤモンド 07年3月31日号(特集:リッツ・カールトン極上の「おもてなし」 サービス全解剖)』より

毎年年始になると、首相や各社経営陣から年頭所感なるものが発表されます。前年度のことについて述べたり、本年度の抱負について語ったりするものですね。きちんと説明責任を果たさなくてはならない立場の人は大変だな、と他人事に考えることは簡単ですが、これをいざ自分でやってみようと思うと意外と難しいながらも面白いものだったりします。

「一年の計は元旦にあり」と言われる時期に仕事上の目標とは別に個人的な目標を掲げるわけですから、コミットメントに対するノルマはないまでも自分には嘘を付けません。必然的に24時間365日、意識した行動を心掛けることになります。自己発信の抱負に対してどれだけのアクションが取れたのか?一年の締めくくりを落胆した気持ちで迎えたくはないものです。仕事の中での自分も成長したいが、人としても成長したい、さらにそれらが相互に刺激し合ってもっと大きな人間になりたい、またそう考えられる自分であり続けたい――、多くの人はそのように考えられているのではないでしょうか?

今年もまもなくそのような時期に入りますので、今回のコラムではそれに沿った話になるかと考えて、私が以前にザ・リッツ・カールトン東京に宿泊したときのエピソードなどを持ち出しながら、タイトルにある「企業理念」や「年頭所感」について述べてみたいと思います。

 

  2007年3月30日、六本木の東京ミッドタウン内に「ザ・リッツ・カールトン東京」が開業しました。ちょうど2007年は私の両親の結婚40周年の年でありましたので、良い機会と思い今年6月にクラブフロアの1泊をプレゼントしました。夫婦水入らずでと思っていたのですが、両親の薦めもあり私も宿泊することになりました。

私事ではありますが、今回の急なプレゼントは親孝行の一つでもあったのかと思いますが、他にも理由がありました。私の古くからの上司でもある専務は、いつも元旦になると4月の期初とは別に個人的な目標を立てるのですが、数年前から私も真似をするようにしています。私の場合は目標というよりはスローガンのようになってしまっているのですが、2007年は「”与えられる”側から”与える”側へ」でした。

私は社会人になってからフリーセルへ転職した以降、上司に恵まれたのかそうでないのか、とにかく苦労は多かったものの多くの方に様々なものを与えて頂き助けられてきました。困ったときは必ず助けてもらえたし、引っ込み思案だった私が何かに挑戦しようと自分なりに頑張って行動に移せば陰で援助されていたり、自分の採った行動が正しかったかどうか分からず不安になっていたときは褒めてくれたりと、知らず知らずの内に人間形成をされてきたような気がします。学校や家庭で学びきれなかった処世術というか、人として大切なものを多く学べた時期でした。

しかし、私の見ているCS部も気が付けば70人くらいの大所帯となってきて、「もっと学びたい、教えて欲しい、成長したい、助けて欲しい」と言っている場合ではなくなってきました。むしろ、私自身が部や会社の将来について考え、今よりも良くなるように努めていかなくてはならない立場となっていました。正直、この立場の逆転を自覚したときは衝撃でした。今までは自分がどうやって成長してゆくかについて考えていれば良かっただけですが、これからはみんなをどうやって成長させてゆくかについて考えていかなくてはなりません。似ているようでまったく違う発想が必要とされてきます。

 

そのための取り組みとしていろいろおこなってきたこともあって、ゆくゆくこのコラムでもご紹介していきたいと思っていますが、まずは私自身が「変わろう!」と思って掲げた「”与えられる”側から”与える”側へ」についてお話したいと思います。

「与える」と一口に言っても様々あると思います。知識や技術、考え方などはもちろんのこと、成長機会、目標設定、達成感、ヴィジョン(志)、ポリシー(信念)、帰属意識(ロイヤリティ)、競争原理、教育・褒章制度、人事考課、やりがいのある職場環境(モチベーション)、ゲーム性、学び実践できるようになる楽しさ、安心感、喜び、誇り、透明性や説明責任(レスポンシビリティ、アカウンタビリティ)、権限委譲(エンパワーメント)、スケジュールや部下の管理能力etc…

何をとっても初めてのことばかりです。本を読み、人の話を聴いても、すぐに自分の考えとして採り入れることも難しければ、行動に移し結果を出すとなると途方が暮れるかのようでした。そんなとき、今年の期初に当社の企業理念が刷新されました。「フリーセル行動指針」では、フリーセル社員の率先垂範(ロールモデル)となる考え方や行動習慣について、7つの指標が立てられました。もちろんそれ以前までも企業理念はありましたが、社員数が急増したこの年に改定となったことは私にとって救いでした。スキルよりもスタンスやマインドを重視する社風が、このときから芽生え始めてきました。

5月には青山にある愛と感動のレストラン「カシータ」の高橋オーナーを招いて、「ホスピタリティ」に関する講演をおこなって頂きました。講演で引き合いに出されたリッツ・カールトンホテルの「クレド」については、かつて当社でも導入を図ろうとしたことがありましたが、うまく社内に浸透しませんでした。逆にこの失敗が糧となって、今の浸透した企業理念があるのだと思います。

また、冒頭でも引用したリッツ・カールトンと言えば、サービス業に携わる者にとってのバイブルとも言うべき『リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間』などで以前から興味を持っていました。2006年9月に創業100周年を迎えた「能登・和倉温泉 加賀屋」さんが旅行新聞新社主催の「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で26年連続で1位に選ばれたり、2004年以降、それまでの東京都心再開発事業に伴って多くの外資系ホテル(コンラッド東京、マンダリンオリエンタル東京、ザ・ペニンシュラ東京etc…)が進出してきた時期でもあり、バブル以降冷え込んだ消費は戦後のモノ信仰からサービス信仰へと移り、マズローの欲求段階説ではないですが人々の消費志向もより良いサービスを求めるようになってきた潮流の中で、ホテル産業はそうした「サービス」における一つの代名詞的存在として注目されました。

講演の中で高橋オーナーもおっしゃっていたのですが、まずは自分自身が体験することによって感性を磨き、人に与えられるようになるという内容の話に影響を受け、思い立って行動に移したのが今回のザ・リッツ・カールトン東京の宿泊プレゼント企画でした。

実際に行動に移してみて気が付いたことは多いです。当たり前のことですが、相手を喜ばせるにはどういったサプライズを用意すればよいか?宿泊予約時から周知、セッティング、アフターフォローまでどのようなスケジュールでおこなうか?また、実際に宿泊してみて、アメニティはどうだったか?スタッフの応対時の表情はどうだったか、ワガママな希望を述べたときのスタッフの言葉遣いはどうだったか?そのとき自分はどう感じたのか――?

基本的なことだけでもいろいろ考えさせられたことはあります。学生時代までは自分が喜ぶために何かをして欲しいという発想が半分でしたが、社会人になるといろいろと相手を喜ばせたくなるものです。こうした考え方こそが、サービス提供者としてのCS部でも必要だと考えるようになりました。

 

なかでも、このホスピタリティ(おもてなしの心)の考え方は重要視していて、リッツ・カールトンが「ホテル産業ではなく、ホスピタリティ産業」と強い自負を持ってサービス提供をしているように、私たちもスキルやノウハウの前に、スタンスやマインドを重視したいと考えるようになりました。

この「ホスピタリティ」の他、私がいつも大切にしていると話すことは、同じくらいの年代の人たち、また中途採用者で構成される組織ですから様々な価値観がぶつかり合うこともあって、「コミュニケーション」(情報伝達のための技術や心掛け、読む・書く・聴く・話す・感じるのリテラシーの強化)と、「リスペクト」(相手の立場を思いやり、考え方や意見を尊重する、仲間の業績やコンピテンシーに敬意を払い自己に採り入れる)です。おそらく学生時代までに家庭や学校で学んできたことばかりなのかと思いますが、社会人になるとなぜかできなかったりすることが往々にしてあります。前提としてマナーや教養があるのだと思いますし、その先には「問題解決思考」だとか「ロジカル・シンキング」だとか方法論や各種ツールがあるのかと思いますが、まずはビジネスマンである前に一人の人間ですから、こうした考え方を大切にできる人たちでCS部の抱える問題の解決や提供サービスの品質向上をおこなっていきたいと考えています。

 

話の内容が転々としてしまいましたが、これらの考え方を元に構築してきたCS組織について、今後もどんどんとご紹介していきたいと思います。また、首相や企業のトップによる「年頭所感」を真似て、来年はどのような個人目標を立てられるか、今から楽しみです。この「自分だけの年頭所感」は、皆さんにも是非お勧めしたいと思います。