『「Webコンサルタント」という選択』発売に寄せて(後編) ~”ユーザ中心”の考え方に気付かされる~

投稿者:小川 悟

2008/04/13 01:22

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モーパッサンは、自分が少しも好きではないエッフェル塔のレストランで、しばしば食事をした。だってここは、私がパリで塔を見ないですむ唯一の場所だからさ、と言いながら……。

/『エッフェル塔』(ロラン・バルト著)

前回のコラムでは、本質を知ることや「3S」(単純化・標準化・専門化)の重要性について述べました。今回はタイトルにも書いた「ユーザ中心」の考え方について気付きを得たことを書いて参ります。

 

◆相手の立場になって考えるということ

本書監修にあたり、発行元である幻冬舎メディアコンサルティング(以下、幻冬舎MC)様から何度か取材を受けている内に、気が付けばああして欲しい、こうして欲しいと我侭を言いながらも、「具体的にはどうすれば良いですか?」と聞かれると具体的な指示出しが出来ていないことに気が付く場面が大変多かったと反省しています。 

私たちは普段、WebディレクションやWebサイトの制作業務を遂行するにあたり、クライアントへ取材してヒアリング及びご提案をさせて頂き、漠然としたニーズから本質を引き出してゴールを明確化し、実現可能な明確な指標と手法について提示するのが仕事の筈です。ですから、今回のように書籍の監修を行う際にも、そうした経験から少しでも事がスムーズに運ぶよう進められても良かったかと思います。しかし、実際は自分たちの行っている業務を誰にでも分かる言葉で、誰もが納得するように論理性を持って説明することが大変難しかったのです。

 

  本書は当社のビジネススタイルを文書化したものではなく、「Webコンサルタント」という職業にスポットを当てた汎用的な内容として書かれることになるとのことでしたので、それだけに責任の重みを感じ、自分に「YES,NO」の判断を迫られると思わず返答に言葉を選んでしまうこともしばしばありました。言葉に窮したときに決まって口にしてしまうのは、「その辺の表現については私たちは詳しくありませんので、プロである御社にお任せするとして――」といった逃げ口上です。

自身の能力を超える判断を迫られた際、どうしても判断する責任から逃れたい、あるいは免罪符の代わりとして相手に連帯責任を求めたくなる心理です。これは職場でもよくあります。自分で判断しなくてはならない場面なのにあえて上司に許可を取ったり、事後報告で済む内容も事前にメールでCC回付したりといった行為です。あたかもそうすることで、何か事故が起こった際に「上司に確認を取ったのですが・・・」といった免責(担保)となることに救いを求めているかのような――。

 

このことをよくよく考えてみると、普段私たちがクライアントと接している際と同様のケースに陥っていることが分かります。私たちのクライアントの多くは、インターネットやWebに関してすごく詳しいということはありません。しかし、各クライアントもその道ではプロとして経営されている方ばかりです。両社にとってWin-Winとなる関係を築いてゆくためには、両社の職域と職責を明確に切り分けた上で、主張するところはしっかり主張するというアサーティブなコミュニケーションが必要とされてくるのかと思います。そのためには相互に相手の立場や考え方を尊重し合う姿勢が重要だと考えています。

そう言えば、私たちも普段Webサイトの制作業務を受託する立場でありますが、工程の一部をアウトソーシングすることもあります。「どうすれば品質を維持したまま、もっと効率化が図れるのか」といったことについて両社間で歩み寄りをしていかなくては良い物は作れませんから、協力会社様に必ずお伝えしているのは、互いに言いたいことははっきり言い合いましょう、また厚かましい限りですが両社のスタッフ一人単位で評価をし合う仕組みを構築しましょうということにしています。

書籍を監修する行為の中で、今まで以上に、クライアントとその先にいるユーザのことを考え、クライアントが今どんなことで悩んでいるのか、何を伝えようとしているのかを汲み取り、それを踏まえた上でのヒアリング・提案ができるような姿勢を強化していきたいと改めて考えさせられました。

 

◆”ユーザ中心”という考え方

ここ数年、Web業界においても、「UCD(User Centered Design:ユーザー中心設計)」という用語が流行しているように思います。「ユーザー・エクスペリエンス」「ペルソナ・マーケティング」などもそうした流れの中で出てきた言葉かもしれません。もっと過去にさかのぼってみると、ユーザビリティ、アクセシビリティ、バリアフリー、ユニバーサルデザインetc…と、Webの枠を飛び出して「デザイン」を語ろうとすると大変奥が深いです。ファシリティ・マネジメントなどを推進するコクヨなどは、ユニバーサルデザインで有名です。

cf.
・ユーザー・エクスペリエンス ? (IT情報マネジメント用語事典)
http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/userexperience.html
・「ペルソナ」マーケティングを知っていますか?(ITpro)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20071029/285663/
・ユニバーサルデザインとは|ユニバーサルデザイン(コクヨ)
http://www.kokuyo.co.jp/eco_ud/ud/aboutud/
・Googleのデザイン10か条(B3 Annex)
http://toshio.typepad.com/b3_annex/2008/03/google10.html
・U-Site〔「Jakob Nielsen博士のAlertbox」邦訳〕(イード)
http://www.usability.gr.jp/
・Webアクセシビリティとは?(インフォアクシア)
http://www.infoaxia.com/awareness/accessibility/

本書を監修するにあたり版元である幻冬舎MC様の意向としては、想定したターゲットにおいては、利用イメージを明確に定義された上で編集されていたようです。実際に手元に置いておき、Web構築を外部委託する際に、さらりと目を通す。発注する側としてある程度不安を払拭した上で、対等なお付き合いをするために最低限の知識武装をする、そんなイメージがあったのかと思います。

私たちもクライアントの意向を汲み取るために、今以上にスタッフ教育を強化していかなくてはならないと考えています。「クライアントの意向を汲み取るようにヒアリングしなさい」とだけ教えても、教えられた方は「この人は何をしたいと考えているのだろう?」とクライアントを直視するばかり。本質を伝えるためには、ティーチングの限界を感じます。そうではなく、「クライアントの見えているものが何か、クライアントの見ている方向はどこか?について理解をしようと努めよう」と説いています。お互いに相手を向き合っていてもゴールへは近づきません。相手と同じ方向を見るべきです。また、この考え方は、初めて大勢の部下を持つことになったマネージャーにも持っていてもらいたいと考えています。

個人的にはこのケースを、恋愛と結婚の違いのように考えています。恋愛は互いに見つめ合うことで、結婚とは互いに同じ方向を向くのが理想と思っています。クライアントと懇意になることは多いのですが、クライアントを望むべき方向に導いてゆくのが仕事ですから、ただ仲が良いだけでなくて相互にハッピーになれたらと思うのです。

 

こうした相手の立場になって考えるとか、ユーザ中心的に考えるといった思考プロセスはマーケティングの基本かと思います。当社の手掛けるWebマーケティングにおいても、こうした考えを積極的に採用していきたいと考えています。

以上、仕事や人生において重要なことを教えてくれた今回の書籍監修という仕事の機会を与えて下さいました幻冬舎MC様にはこの場を借りてお礼申し上げたいと思います。

 

さて、4月、当社は第8期目に突入してきたわけですが、今年も新卒が12名入社致しました。昨今、景気回復等で雇用機会が増えていると耳にすることが増えてきましたが、あえてベンチャースピリットを掲げる当社への入社を決断されたわけですから、しっかり仕事や勉強をして、ビジネスマンとしても社会における一人の人間としても大きく成長していってもらいたいと思います。当社の利点は、こうした多くの気付きを得られる機会が多いことです。当社にはリクルート創業者である江副浩正氏の掲げた理念、「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」に共感している者が多いですが、成果を上げて、心から望めば、重要な仕事が権限委譲され、それを自分のミッションとすることが可能な会社です。現状に甘んじることなく、常に上昇志向をキープできるような仕組みづくりをしていきたいと思いました。今期も一生懸命頑張って参りますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。