失敗体験を通して創造力を生み出すために ~アポロ月面着陸40年、世界天文年2009~
投稿者:小川 悟
2009/05/17 13:10
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我々のミッションは”輝かしい失敗”と呼ばれた。
/映画『アポロ13』(1995年・米、監督:ロン・ハワード、主演:トム・ハンクス)
今年2009年は、イタリアの科学者ガリレオ・ガリレイが自作の望遠鏡をのぞいて宇宙に目を向け、太陽もまた地球同様自転しているなど、様々な事実や法則を発見した1609年からちょうど400年ということで、「世界天文年2009」と定められたそうです。
cf.
・2009年皆既日食ツアー(近畿日本ツーリスト)
※2009年7月22日には、日本国内の一部で46年ぶりの皆既日食が見られる年でもあるそうです。
・企画展 ガリレオの天体観測から400年 宇宙の謎を解き明かす
http://www.kahaku.go.jp/event/2009/05astronomy/
ガリレオによって発見された様々な事象により、それ以前にコペルニクスが提唱していた地動説を擁護する形となりましたが、時のローマ教皇庁は宗教上の理由で地動説を唱えることを異端であるとしました。これが俗に言われる「ガリレオ裁判」です。今では当たり前のように思われている「地動説」ですが、5年前くらいの日本の調査では、小学生の4割が「地球は太陽のまわりを回っている」とテストで回答、その後ロシアで行われた調査でも国民の3割が天動説を信じているという調査結果が出たこともありました。
また、ローマ法王(ベネディクト16世)がガリレオの地動説を公式に認めたのは実は2008年12月21日と最近のことで、前法王ヨハネ・パウロ2世がバチカンの非を認めたのが1992年のことでした。科学と宗教が対峙する時代は終わり、新たに共存する道を選んだということなのでしょうが、こうしたタイミングにおいて現在上映中の映画、『天使と悪魔』は話題性が高いようで、元々メディアミックスの先駆である角川グループということもあってか、インターネット広告への出稿なども積極的ですね。
さて、今回のコラムでは、上記の例ではスケールが大き過ぎる話ではありますが、過去の失敗や過ちを認め、これからの企業や社会の発展に寄与してゆくための方法について模索してゆくために私たちができることは何なのか?ということについて書いていければと思います。
再び話は横道にそれますが、先の『天使と悪魔』の監督ロン・ハワードと、主演のトム・ハンクスがかつてコンビを組んだ映画に『アポロ13』があります。私がちょうど大学1、2年の頃にクラスで流行った映画の一つでした。クラス内で友人たちと自分の趣味嗜好をぶつけ合う中で仲を深めていこうという動きがあり、映画であれば他に『ショーシャンクの空に』や、その少し前の『いまを生きる』などが私の周囲では特に流行っていました。文学部だったこともあってか、『いまを生きる』に影響を受け、「死せる詩人の会」のようなグループが自然とでき、好きな海外詩を紹介し合うことなどもしていました。また、この『アポロ13』の影響もあってか、私は大学の卒業旅行でアメリカ5都市を回った際、フロリダにあるケネディ宇宙センターにも足を伸ばしたものでした。
この『アポロ13』は、実際に合った出来事を映画化したものです。旧ソビエト連邦のガガーリンが1961年に人類初の宇宙飛行を行ったことに触発された1960年代のアメリカでは、時のケネディ大統領が「1960年代中に人類を月面に着陸させる」と公約したアポロ計画を推進していました。そして、1969年7月20日、アポロ11号のニール・アームストロング船長は人類で初めて月面に降り立ちました。
当時世界的スターだったビートルズが解散問題に揺れ、デヴィッド・ボウイが映画『2001年宇宙の旅』に影響を受けて書いたとされる『スペース・オディティ』を発表し、ヒューストン(ジョンソン宇宙センター)からの呼び掛けに応じず、宇宙を漂い続けることを選んだトム少佐を歌った時代のことです。
テーマとなっているアポロ13号は、先のアポロ計画の中――、アポロ11号からアポロ17号までの7機の中で、唯一月着陸ができなかった機体として知られています。同時に、冒頭でも書いたように、「輝かしい失敗」としても知られた功績を残してもいます。地球から32万kmも離れた宇宙の彼方で重大な事故が起こりながらも、3人の乗員全員が無事地球に帰還したことと、地球側でそれを助けるために尽力した管制官たちのチームワークにより、前代未聞の事故に際し最後まで諦めずに人命を救ったベストプラクティスに対して、この「輝かしい」という修飾語が付いたのだと思います。
この功績は今の時代でもすごいことだと思います。その後、1986年のチャレンジャー号爆発事故、コロンビア号空中分解事故と悲しい事故が続きましたが、コロンビア号の事故の際に緊急で出版された「Newsweek(2003-2・12号)」に目を通し、船長であったリック・ハズバンドが乗船前に史上最高のチームを作り上げようと決意し、チームワークが取れるかどうかを確かめるため、仲間を引き連れて11日間の登山合宿を行ったエピソードについて触れていて、目頭が熱くなったことを思い出しました。当時私が書いた日記では、「17年前のチャレンジャー大爆発以前には大惨事の起こる可能性は10万分の1とされていたが、チャレンジャーの大爆発により、それは148分の1に修正された」という記事の内容について触れていて、宇宙事業にはとてつもないリスクが付き物であることを知りました。また、スペースシャトル打ち上げの燃料コストも非効率で、2010年には退役するという話も出ています。
このアポロ13号の「失敗」体験ですが、後々「失敗学」という言葉も生まれ、失敗知識をデータベース化してインターネット上にも公開されました。
cf.
・『失敗学のすすめ』(畑村洋太郎著)
・JST失敗知識データベース(独立行政法人 科学技術振興機構)
上記、JST失敗知識データベース内の「失敗百選」の中に、このアポロ13号や、チャレンジャー号、タイタニック号の事故についてもランクインしていますが、『失敗学のすすめ』の中で畑村氏は、「失敗学」における「失敗」を以下のように定義しています。
ここでは「人間が関わって行うひとつの行為が、はじめに定めた目的を達成できないこと」を失敗と呼ぶことにします。別の表現を使えば、「人間が関わってひとつの行為を行ったとき、望ましくない、予期せぬ結果が生じること」とすることもできます。「人間が関わっている」と「望ましくない結果」のふたつがキーワードです。
/『失敗学のすすめ』(畑村洋太郎著)
これを読んでふと、昨今のニュースを振り返ってみても、何も宇宙のような大きなスケールでなくとも、身近な会社の問題で私たちは多くの失敗をしていることに気が付かされます。氏は著書の中で、「失敗の特性を理解し、不必要な失敗を繰り返さないとともに、失敗からその人を成長させる新たな知識を学ぼうと」することを「失敗学」の趣旨と説いています。ここで重要になってくるのが「不必要な失敗」とは何かということかと思いますが、それについても「失敗原因の階層性」という項で説明があります。つまり失敗には階層があるということで、底辺にある「個々人に責任のある失敗」に始まり、「組織運営不良」、「企業経営不良」、「行政・政治の怠慢」、「社会システム不適合」、「未知への遭遇」といったヒエラルキー構造となっている旨を説明し、「よい失敗」を「未知への遭遇」の中に含み、それ以外は「不必要な失敗」と位置づけています。また、この構造上、上にいけばいくほど影響も大きくなり、リーダーや経営者などが判断を求められるケースが多いと言います。
アポロ13号の場合は、たったネジ1本が事故の主原因と言われてはいますが、前例のない事故で無事地球に帰還させるためにはどうすればよいか?といったことについて皆で考え出した対策が功を奏したことで「未知への遭遇」だったのではないかと個人的には思いました。
私たちのWeb業界でも多くの失敗があります。以前のコラム、『「コンタクトセンター」発足から1年 ~「顧客の声(VOC)」に耳を傾けることの重要さ~ 』の中でも、「ハインリッヒの法則」や「ヒヤリ・ハット事例」について触れたことがありましたが、それ以外に事業そのものの失敗であるとか、提供していたシステムが停止したり、納品した成果物に重大な欠陥があったという瑕疵まで様々です。
cf.
・「お金払って」と呼び掛けたカフェスタ、終了へ 7年の歴史に幕(ITmedia News,2009年05月08日)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0905/08/news064.html
・「ヨドバシ・ドット・コム」がリニューアル直後から表示が遅すぎて激重になる大規模障害が発生、一体何が起きているのか?(GIGAZINE,2008年10月28日)
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20081029_yodobashi_slow/
特にインターネット業界は、他の製造業などに比べて歴史が浅く、こうした失敗事例の共有や善後策の常套手段といったノウハウの共有が少ない業界であるとも思います。しかし、「失敗の本質」をたどってゆくと、別業界で起こっている「失敗」も時に私たちに密接に絡んでくることも少なくありません。こうした失敗を手掛かりに、今後も「不必要な失敗」を減らし、「未知への遭遇」としっかり対峙してゆく必要があると考えています。
失敗を避けたり、失敗から逃げるのではなく、失敗を通して何か次の成長に繋がることを学ばなくてはなならないということですね。『失敗学のすすめ』の中では、無闇に失敗を遠ざけていると、創造力が身に付かなくなると説いており、創造力はすなわち「自分で課題を設定する能力」と説明しています。
これは私たちインターネット業界に限らず、ビジネスマンであれば必ず求められる能力でしょう。しかし、それは一朝一夕に確立されるわけではありません。個々人の失敗知識データベースの活用に始まり、(学習のために意図的に失敗させることはあっても、)組織としても「不必要な失敗」を避けるための対策はしっかりと練るべきだと考えます。
先述したタイタニック号のように、氷山があることに対する二度の警告を振り切り、氷山を避け切れず座礁して大惨事になったように、組織が大きくなればなるほど舵取りの判断を早めに行わないと事故回避に間に合いません。
現在当社では総クライアント数が4000を越え、ここで日々の営業活動でしっかりと契約を取り、お客様に対するWebコンサルティングサービスもしっかりと行ってゆくことを前提にすると、そこで起こり得る事故というのは、まだ大手企業を含めてもそれほど多くはありません。言わば市場の牽引のために、周囲からの監視も強まる中、前例が少ないことに挑戦しつつ成果を上げていかなくてはならないのです。
私たち生産管理やクリエイティブを管理するCS本部においては、不必要な失敗を繰り返し、創造の足を引っ張らないように、各部課において以前より、「ポリシーの策定」や「マニュアル・ガイドラインの整備」といったメソッドの確立に勤しんできました。
例えば、制作部ライティング課のメソッドは、以下のように紹介されています。
■Webライティングスタンダード|体系化されたノウハウ集でクライアントと消費者をつなぎたい(「次を創る」ためのインターネット広告方法論)
http://www.web-consultants.jp/column/matsuoka/2009/04/web-4.html
他にも、「D-sta(フリーセル・ディレクション・スタンダード)」や、「制作ガイドライン」、「SEOポリシー」等、移り変わりの速いインターネット業界の最新情報を元に常に改訂を繰り返しながら、バージョン管理を行っています。それでも起こるのが事故ですが、事故の原因は大枠体系化できます。そのカテゴリに応じて取るべき対策は決まってきます。
基本的なことは、多くの現場で言われていることではありますが、難しいのは先にも述べたように、総クライアント数4000を越えて、初めて発生するような事故についての対策です。まさに「未知への遭遇」ですが、そういった部分にも留意して作られたメソッドなので、これがどの企業にも当てはまるものではないと考えています。
これらのメソッドの重要な部分は、常に改訂してゆくものであるということと、継続して引き継いでゆく必要があるということです。コラム、『富士登山で学べる「セルフコーチング」』で、『類推の山』という文学作品について触れたことがありましたが、その山の掟と著者が定めた――、「僕らは新しい山小屋にむかってつきすすむ前に、もういちど下へ降りて、僕らがはじめに得た知識を、別の探索者に教えておかなければならない」のように、後継するメンバーに対し、マイルストーンを示していくことも使命の一つだと考えています。
今後、より大きな局面にぶつかっても上手く推進し、顧客との共存共栄を図ってゆくために、これからも日々学習と行動に励みたいと考えています。