インターネットがもたらす第三の開国の夜明け前 ~2009年、横浜開港150周年~

投稿者:小川 悟

2008/07/13 00:07

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その国のおきてを無視して、故意にもそれを破ろうとするものがまっしぐらにあの江戸湾を望んで直進して来た。

/『夜明け前』(島崎藤村著)

来年、2009年6月2日は、横浜開港150周年(横浜市制120周年)です(1859年に函館・長崎と共に自由貿易港として開港。神戸は1868年、新潟は1869年開港)。例年通り、先月には開港祭も行われ、今月20日は花火大会とイベントが目白押しですね。横浜以外にも函館などでは、来年の関連イベント主催に向けて着々と準備が進んでいるようです。

cf.
・日本開港五都市観光協議会ホームページ
http://www.5city.or.jp/
・開港150周年・創造都市事業本部(横浜市)
http://www.city.yokohama.jp/me/keiei/kaikou/
・横濱開港150周年
http://www.yokohama150.org/
・第27回 横浜開港祭
http://www.kaikosai.com/
・ペリーの鼻
http://www.kaikou150.jp/
・JRと横浜市が大規模観光キャンペーン -五千万人集客目指す(ヨコハマ経済新聞,)
http://www.hamakei.com/headline/2404/
・函館開港150周年公式サイト
http://www.hakodate150.com/

 

余談ではありますが、横浜は私の実家からも程近く、ランドマークタワーがオープンした頃はまだ高校生でしたが、オープン2日目にして友人らと駆けつけては、当時流行していたタピオカ製品などを購入した思い出があります。また、横浜トリエンナーレ(2001年の第1回は行きそびれましたが)を楽しんだり、市営地下鉄横浜線が開通してしばらく経った頃の全席シルバーシート制導入に衝撃を受けたり、みなとみらい線が開通した頃は地下鉄の上を路線に沿って歩いて歴史の街を散策したり、一方でそれまで横浜美術館に行くのに桜木町を利用していたので便利になった反面、一抹の淋しさを覚えたりもしたものでした。

私がもともと横浜という都市に対して抱いていたイメージは、博覧会(横浜市制100周年を記念して行われた「YES’89 横浜博覧会」)が開催されたり、みなとみらい21地区に表されているような近未来都市、中華街などのような異人街を有する一方で、有名ホテルやコンベンションセンターなども配備する国際都市、各種ジャズ・フェスティバル(横濱ジャズプロムナード,本牧ジャズ祭)や野毛大道芸に代表されるように、市の職員や市民参加型で率先的にイベントが主催されるなど町おこしに寄与しているような持続可能な都市、多くの博物館・美術館といった各種ミュージアムやギャラリー、記念館、映画館などが密集する文化・芸術都市、そして今から150年前、各国と修好通商条約を結んだ日本にペリー率いる黒船艦隊が開国を迫り、やがて討幕~維新、文明開化、その後の急速な経済・インフラの拡大と、日本の歴史上においても極めて猛スピードで歴史が駆け抜けていった開国の都市といったように様々な側面があるように思います。また、そうした横浜の歴史や地誌、市制やまちづくりに関する本などには興味深い内容のものが多いです。

cf.
・『イベント創造の時代 自治体と市民によるアートマネージメント』(野田邦弘著)
・『都市ヨコハマをつくる 実践的まちづくり手法』(田村明著)
・『横浜赤レンガ倉庫物語』((株)みなとみらい21・神奈川新聞社編)
・『近代日本の社会と交通1 横浜開港と交通の近代化』(西川武臣著)

先日まで江戸東京博物館で開催されていた、ペリー&ハリス ~泰平の眠りを覚ました男たち~展には私も行って参りました。「泰平の眠りをさます上喜撰(蒸気船) たつた四杯で夜も寝られず」と後に謳われた横浜へのペリー来航時の様子を、日本初公開を含む貴重な歴史的資料で振り返った展覧会でした。また、偶然にも今年のゴールデン・ウィークには、同僚たちと函館・五稜郭の見学に行くこともでき、開港150周年を来年に控えて気分も揚々です。

 

さて、いかようにも語られる横浜の開国ですが、野村総合研究所では、明治維新を「第一の開国」と呼んでいます。では第二、第三の開国とは何か?第二次世界大戦後に、それまで各国と断交していた日本が海外諸国に開かれてゆく「戦後復興」が「第二の開国」、そして、「第三の開国」は以下のように説明されています。

「第三の開国」では、日本から一方的に出て行く開国でもなく、また国外から入ってくる開国だけでもない。「入ってくる国際化」と「出て行く国際化」が同時進行していくことになる。

/『2015年の日本 新たな「開国」の時代へ』(野村総合研究所 2015年プロジェクトチーム著)

また、1994年に出版された『第三の開国 インターネットの衝撃』(神沼二真著)では、1994年を「情報開国元年」と呼び、前年93年に発表された米国のゴア副大統領の「情報スーパーハイウェイ構想」について言及されています。そして以下のように述べています。

情報スーパーハイウェイ構想とその雛形であるインターネットの日本上陸は、他国とくに欧米からは情報をとりながら、自らは情報を発信してこなかった情報のブラックホール大国、日本の情報開国を意味する。それはまた、情報を基盤とした主権在民を実現する道を切り開く。組織の中の仲間とそれ以外の人間とを区別する、日本人の偏狭な思考を地球人的思考に脱皮する道を開くものだ。

/『第三の開国 インターネットの衝撃』(神沼二真著)

確かに94年以降、日本ではインターネットが飛躍的に進化を遂げていきました。その後の経緯については、以前も本コラムで書きました(cf.「クロニクル「インターネット業界10年史」 ~まるでビッグバンのように、超高圧な一点の意志からその広大無辺な市場は生まれた~」)。そうした部分で言えば、インターネットは「平成の黒船」と呼べるかもしれません。

 

今年5月に国土交通省が歴史まちづくり法(地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律)を公布しました。今後の国際化社会を目指して、観光産業や地方都市の産業振興に注力してゆこうとする動きが見えるような気がします。従来までの東京に一極集中した中央集権的な従来の日本の構造では世界から取り残されるといった危機感から制定されたものかどうかは分かりませんが、先の野村総合研究所では、「レイヤーケーキからマーブルケーキへの変化をとげる地域構造」と呼んでいます。

「第三の開国」に対応して地域が東京への依存構造から脱却し、多様性を深めつつグローバル化を進める変化を、「『レイヤーケーキ』から『マーブルケーキ』への変化」という言葉で示したい。

/『2015年の日本 新たな「開国」の時代へ』(野村総合研究所 2015年プロジェクトチーム著)

ガソリン代の高騰や、タバコが1,000円になるとか、姉歯事件に端を発する建築基準法の改正と、ときに政治不況と呼ばれたり、市民による「憂国、平成世直し的風潮」が高まる昨今、景気回復に向かっているというような声もありながら人々の消費に対する志向はまだ完全に開かれていないような気もしなくもありません。

冒頭に挙げた『夜明け前』は、1929年(昭和4年)に島崎藤村によって当時連載小説として書かれたものです。1929年といえば、ツェッペリン飛行船が来日して日本の上空を飛んだ年(cf.『ツェッペリン飛行船』、柘植久慶著)です。主人公の青山半蔵は島崎藤村の実父にあたる人と言われています。先のペリー来航などの話に触れながら、日本の近代化(開国)までを「夜明け前」として描いています。

1929年は同時にニューヨーク株式が大暴落したことによって起こった世界大恐慌の年でもありました。その後、フランクリン・ルーズベルト大統領がニューディール政策を行い、世界を大恐慌から救ったと歴史の教科書からは習いましたが、今の日本では「ニートを救おう」という発想まではあっても、まだここまで画期的な政策は発表されていません。

そうした意味でまだ日本は「夜明け前」、つまり「第三の開国」の前なのではないかと考えます。野村総合研究所が言及するように、2015年に向けて日本が飛躍的に進歩するのだとすれば、ボーダレスな世界的ネットワークを構築して、双方向のコミュニケーションが図れるインターネットがそれに寄与する部分も大きいのではないかと期待しています。私たち民間企業が行えることには限界があるのかもしれませんが、上部構造を支えるための草の根を張るのはこうした民間企業ですから、今私たちに出来得る限りの企業努力を続けて、来るべき時代に備えて日々の精進を怠らないようにしていきたいと考えています。