どうせ描くなら、できるだけリアルな夢を ~「手段」を「目的」にしない仕事術~
投稿者:小川 悟
2008/08/04 00:46
この記事は約8分で読むことができます。
夢を持ち、その夢を実現すべく燃えることができるのは、全生物のなかでも人間だけである。天から授かったこの能力をフルに発揮する人生を送りたいものである。
/『小さな人生論 「既知」の言葉 ”夢を実現する”』(藤尾秀昭著)
7月29日、シアトル・マリナーズのイチロー選手が、日米通算3000本安打という偉業を成し遂げました。
cf.MAJOR.JP|MLB ニュース
http://mlb.yahoo.co.jp/headlines/?a=15423
イチロー選手のことがビジネスの世界でもよく引き合いに出されます。多くの有名になった語録が、ビジネスシーンの前線で活躍するビジネスパーソンにとって刺激的な内容であることが想像できます。他に有名なエピソードとして、イチロー選手が小学校6年生の頃に書いた作文のことが挙げられます。
ネットで「イチロー 作文」などで検索すると、その”有名な作文”がかなりヒットします。この「イチローの作文」が有名たらしめている一番の理由は、そこに書かれてある“夢の現実性(リアリティ)”かと思います。
小学6年生にして、自身の夢(もしくは目標と置き換えても良いかもしれません)を「プロ野球選手になること」と明確化しています。そして、「必ずプロ野球選手になれると思います」と、確固とした根拠を述べた上で確信を抱いています。そして「そしてその球団は、中日ドラゴンズか、西部ライオンズです。ドラフト入団で、契約金は、1億円以上が目標です」と具体化させています。さらには、「僕が一流選手になって試合に出られるようになったら、お世話になった人に招待状を配って応援してもらうのも夢の一つです」という報恩、奉仕の気持ちも抱いているところは、とても小学生の文章には思えないほどです。
cf.
・『小さな人生論 「既知」の言葉 ”夢を実現する”』/藤尾秀昭著
・人間学を学ぶ月刊誌 月刊『致知』 致知出版社 公式サイト
http://www.chichi.co.jp/
ところで、上記のイチローの小学生時代の作文と比べてみて、私たちは明確な夢、ないしは目標を抱いているでしょうか。
最近は中途入社者の採用活動に携わるケースも増えてきたのですが、応募者の方に必ず聞くようにしているのが志望理由とその目的です。当社に入社して、もしくは志望されている職種に就くことでどんな自分を目指しているのか、また、どんな理由でそれを目指しているのかについては、基本的なことかもしれませんが必ずと言っていいほど聞くようにしています。面接は限られた時間で判断をしなくてはなりません。今後長らく一緒に仕事をしてゆくことを考えると、これらを極力正確に把握しないことには判断のしようがありません。仮にここがずれたまま採用を行うとどのようになるかと言えば、もちろん当社側と応募者側との価値観の不一致を生み、対等な関係は長く続かず、両者が求める結果は得られないでしょう。
とは言いながら、自分が何を目指しているのか、何故それを目指しているかについてを限られた時間内に述べるのは難しいこともあるかもしれません。さらに会社も世の中の情勢も都度変化していることもあり、その「価値観」が互いにマッチングする可能性とまでなると極僅かであるかもしれません。求職者の側からしてみれば、面接会場というアウェーで自分という商品を売り込む営業活動にも似た場面であるわけで、緊張もあるでしょうし、まるでそれは走行中の乗り物に飛び乗るような感覚でしょうから至極大変であることかと思います。しかし、こうした自己表現能力(プレゼンテーション能力)や情報伝達力(コミュニケーション能力)は、得てして面接時よりもむしろ入社後の方が求められてくるものです。元々そうした素養のある方ならともかく、ない人であればあるほど「準備」は入念に行った方が良いと思います。
一方、私たちの職場に置き換えて思い出してみると、入社時には明確に抱いていた「夢」や「目標」がぼやけて、今目の前にある仕事をこなすことが目的そのものとなってしまっている人も出てきたりします。「こうなりたい」、「こうはなりたくない」といった自身にとっての明確な基準値があれば、そのときそのときの自分と比較ができるので気分は楽だと思います。しかし、そういったものがないと、「何のためにこんなことをしてるんだろう」とか、「自分がやりたいことは他にあるのではなかったか?」といった気持ちになり、同じ目標に対して目的意識をしっかりと持って、楽しみながら努力してゆくタイプの人とは能力的にも成果の上でもさらなる開きを生み、結果として自分が望んでいなかったようなポジショニングを確立してしまうのだと思います。
自分の「目的」について改めて考えてみようとするとき、自分が最終的に何をしたいか、どうなりたいかについて自覚するために、自身の内的体験に基づいたものなど動機が必要となってくるでしょうし、何よりも「理念」なり「欲」なりがあることが大切です。これらが定まらない内から、「戦略」ばかりを講じていても何も始まりません。また、こういった一連の要素から発展させて自身の進むべき道を模索することを「キャリアデザイン」と呼んだりすることもありますが、キャリアデザインとは言い換えればその人自身の「生き方」とも呼べます。
cf.
・「まず、目的とスタンスを決めよう! キャリアを設計するとは」([ITプロフェッショナルのスキル]All About)
http://allabout.co.jp/career/swengineer/closeup/CU20040316A/
・ライフハック テンプレート:#015 目標設定時に使えるSMARTシート(ITmedia Biz.ID)
http://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/0709/28/news001.html
それから、最近は次世代ゲーム機が人気のようですのでゲームにも例えてみます。
昔から根強い人気を有しているRPG(ロール・プレイング・ゲーム)の類では、大抵はゲームの登場人物(主人公など)も含めてプレイヤーがコントロールするため、対自分以外という視界であるリアルな世界とは違って、自分(主人公のキャラクター)を客観評価することがしやすいものです。他のパーティメンバーに比べて勝っている部分、劣っている部分、そもそもパーティーの要素に欠けている部分、自分に求められている役割・期待等が数値化・文書化され、とても明確です。
MMORPG(Massively Multiplayer Online Role Playing Game)となると、ゲームの目的やキャラクター同士の相関関係がさらに複雑化された分、使命感、貢献感など、各キャラクターの役割デザインや価値観を明確にさせているプレイヤー同士では密な協働プレイが可能となります。
どちらのタイプのゲームにも共通して言えることは、そのコミュニティへの参加条件としては、リアルな世界での社会的・経済的地位は一切不要で、学力や身体能力上の差異も全く関係ありません。また、ゲームプレイ中の状況判断はすべてプレイヤーに託されるということでしょう。負傷すれば回復させればよいし、遠出するなら用意周到に準備をすればよいといったようにです。様々な状況判断が俯瞰的な見地から行え、誰の許可も得ずに独断で決裁できます。
また、レベルが上がれば上がるほど、各ステータスを向上させたり、新しいことを覚えてゆくのが困難になってくるのも特徴かもしれません。レベルはそのまま年齢だったり、段階に例えられるかもしれません。終局までの間に、事実上割り当てられるステータス値の上限が決まっているようなゲームの場合、プレイ開始時から最終的なゴールイメージを決めていないと終盤になって後悔したり、苦戦を強いられたりすることもあるでしょう。
まさに「ロール・プレイング(役割演技)」というだけあって、マルチエンディング(ゲーム途中のプレイヤーが選択する行動によってエンディングの内容が変わる)が用意されたゲームがあったりと、限られたコミュニティの中でルールや志を共有し、仲間とともに一つ、あるいは複数の目的を果たすというリアルな世界さながらの構図がそこにはあると思います。
こうしたゲームでも、「目的」と「手段」が履き違ってしまうことはよくあります。俗に言われる「レベル上げ」を強いられる状況になった際に本来的な目的を忘れて「レベル上げ」作業自体が目的となってしまうとか、レアアイテムの収集やオールコンプリート(全アイテム収集)が目的となってしまったりといったことに陥ったりすることもあるかと思います。
閑話休題。さて、以上のように「目的」と「手段」の違いを述べてきましたが、私たちのWebコンサルティングの現場でもよくそういったことを考えさせられる場面によく当たります。たとえば一番多いケースとして、クライアントにWebサイト開設の”目的”を尋ねた際に、「検索エンジンで上位表示できるようにしてほしい」と言われるケースです。次にディテールまでご要望が及ぶ場合です。「ブログが書けるコーナーを用意して欲しい」、「TOPページに自分で更新できるカレンダーを設置してほしい」等。もちろんそれ自体は明確なニーズですから適った策はご提案したいと考えますが、本当にそれらはWebサイト開設の”目的”でしょうか?
まず、私たちWebコンサルタントの仕事は、”目的”を明確化し共有するところから始まります。それからコミュニケーションを深めてビジョンや戦略イメージを共有し、具体的な手段を講じたり、リスクを洗い出したり、目標達成の実現の可能性について探り、コストの範囲内で歩み寄っていきます。その際、どうせ描くなら、できるだけリアルな夢を描きたいと考えます。自社の所有するWebサイトに対し、漠然とでも「改善したい」「競合他社のようにやりたい」といったご要望がございましたら、目的を共有するところからお付き合いさせて頂きたいと思います。当社が提供している、「現状Web戦略状況レポート」を是非一度ご利用下さい。