クリエイターは消費者の夢を見るか? ~第二四半期末社員総会を終えて~
投稿者:小川 悟
2008/10/13 14:56
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願望実現機とは、労働人口の不足に悩む未来社会が、過去の人間たちを不死にして無償の労働力にするために考えだした「人狩りマシーン」だったのである。
/『衝動買い日記』(鹿島茂著)
ご報告が遅れましたが、先々週の4日(土)に、今期に入って2回目の社員総会が、渋谷にある「Club Camelot」で行われました。3ヶ月に1度社員総会を行うことで、1年で4年分の成長をしようという試みで始まった第1回の様子は以前にも本コラム(「第8期第一四半期社員総会を終えて ~ゴールビジョンを明確に言語化し、共有する~」)でお伝えした通りです。
◆社長より、開会の挨拶
今回は、前回全社に向けてコミットメントした今期のゴールビジョンに対して、どれだけの進捗があったかを全社員の前で発表したり、来年度入社予定の新卒内定者の内定式を兼ねた第一部と、余興や歓談などを中心とした第二部に分けて行われました。私たちCS部でも幾つか進展があり、報告をしました。
CS部が今期期初に掲げたゴールビジョンは――、
生産管理のQCDS(品質<Quality>・コスト<Cost>・納期<Delivery>・サービス<Service>)を意識した、新たな中小・ベンチャー企業向けWebコンサルティング組織の創出
――でした。
前期のゴールビジョンに、「サービス<Service>」が追加されただけですが、私たちにとっては大きな一歩でした。前期は正直に言いまして、急激な成長期に伴う痛みと言うべきか、部内では組織形成が追い付かずにどこかギクシャクとした業務状況でした。後半盛り返して、ようやく最低限の品質管理の域にまで到達できたのではないかと考えています。
「Webコンサルティング」という形のないものを扱っているため分かりにくい部分もあるかと思いますが、CS部の本質は、「ものづくり」と「サービス」ではないかと考えています。こうした業態は既に他の業種にも見られます。飲食店がその一つです。皆さんにとって、理想の飲食店とはどのようなものですか?
例えば、「うまい、安い、早い」のコピーで有名な吉野家。このコピーが既にものづくりで言うところの「QCD」のポリシーを表していると思います。私たちは前期、言葉で言えばこんな簡単な「うまい、安い、早い」を実現するために相当な苦労をしました。これを世の中に向けて発信して約束するためには、月間100サイト前後を毎月取り扱っている当社において、俗に言われる「見える化(数値化・グラフ化・文書化等)」を行い、これほどまでに個人に依存しやすい労働集約型、属人的なWebコンサルティングの業務上にあって、ヒューマンエラーを極限まで少なくするための案件管理が求められました。
そうして、ある程度の水準にまで標準化できた前期末、私はふと一抹の疑問を抱きました。
「この生産管理体制は、まるでロボットだ――」
当社の創業まもない頃、ミスがあったり過剰サービスがあったり、すべてのお客様に対して均質なサービスを提供できなかった時代に比べ、生産効率や品質は格段に向上しました。ところが、同時に失われそうになったのが、「サービス精神」でした。「ホスピタリティ(おもてなしの心)」と言い換えても良いかもしれません。この先にあるのは、人間味・人情のない、消費のための生産しかない――。
贅沢な悩みなのかもしれません。しかし、理想というものは一つ叶えるとまた一つ、その先にある理想を追い求めたくなるものです。そういった背景の中で今期がスタートしたのですが、同じタイミングで今期末のゴールビジョンを一新する機会があったため、私は先述のように「サービス<Service>」を加えてストレッチさせた「QCDS」を意識した体制を目指すことにしました。
「うまい、安い、早い、そして心地よいサービス」――、果たしてそんな「Webコンサルティング」は実現可能なのだろうか?想像できないことは実現できない。まずはそれが言い表しているサービスがどのようなものかをひたすら想像するところから始めてみることにし、現在も精度向上に向けて取り組んでいるところです。
ところで先の「ロボット」ですが、昨今その用語が使われ出したのは、カレル・チャペックの戯曲、『ロボット(R.U.R.)』以降と言われ、語源はチェコ語の“robota”(「苦役」や「労働」の意)とスロバキア語の“robotonik”(「労働者」の意)を掛け合わせた造語だそうです。本書が書かれた時代背景なども考慮するとかなりの時代批評や文明批評を散りばめているのですが、こうした設定は他のSF小説にもよく見られます。
冒頭のエピグラムで紹介している鹿島茂氏の『衝動買い日記』は、単に衝動買いが抑えられない物欲の虜になった経緯だけが書かれているわけでなく、幾つか興味深い引用があります。「人狩りマシーン」とだけ聞くと物騒な物言いですが、ロバート・シェクリイという米SF作家の短編作品、『願望実現機』について著者が言及した内容となります。
主人公の男がここぞとばかりにあらゆる願望を叶えていたところへ、タイムマシーンに乗った執達史が現れ、それまで実現した願望の金額の支払いを命じる。それを返済するために男は未来社会で強制労働に従事することになるという話だそうですが、著者曰くこの小説で描き出されているものは、まさに本書で描かれている1950年代のアメリカ社会で急激な勢いで普及していったという「クレジットカード」のことではないかとのことでした。確かにクレジットカードは、未来に引き落とされるお金を現時点で使って支払いを先送りにし、消費願望を満たす際にも使われます。言い得て妙ですが、SF小説は時代背景も映すものなんですね。
閑話休題。いずれにしても、私たちだけでなく世の中で何かの仕事に就いている人は、仕事を「苦役」だなんて思わないようにしたいですね。「苦役」から生まれるものよりは、自己実現の果てに生まれた仕事の成果の方が、きっと利用する消費者も喜んでくれるのではないかと思います。もちろん社会に流通しているものの中には、例えば皆さんが着ている服など、過酷な労働環境下で作られたものもあるかもしれません。そういう点では、Webサイトの構築も同じようなものかもしれません。Web制作の現場を知らない方は、スマートな打ち合わせ風景などを思い浮かべることもあるかもしれませんが、実際にはそういった側面のほか地道な作業が無数にあります。
◆社員総会後の後片付け。CS部制作課の映像制作チーム
そうした環境の中で忘れて欲しくない考え方に、「ユーザー志向」(顧客目線)があります。「お客様のお客様はどんな人なのか――」、ある程度の生産効率を実現するためには合理化しなくてはならない要素も多分にありますが、合理化されたシステムだけではどうにもならない消費者心理があることもまた事実です。当社のWebクリエイター全員が、納品したWebサイトがエンドユーザーに利用されるようなイメージを持って制作に取り組んで欲しいと常に思っています。もちろんクリエイターだけでなく、制作工程に携わる人全てが同じ気持ちで制作に関わって欲しいのですが、特に今後標準化が求められる、また、お客様や消費者から見て最も遠いポジションにいるクリエイターにとって、その考えはなくして欲しくないと考えています。
本コラム表題の「クリエイターは消費者の夢を見るか?」は、もちろん、フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(映画『ブレードランナー』の原作とされる)をもじった造語ですが、クリエイターも人間であることに変わりません。「ものづくり」や「サービス」に対する考え方の中に芸術的・職人的なストイックさは求めたいですが、芯には人間であるが故の発想も欲しいです。そこからWebならではのマーケティングの発想などに繋げ、お客様のさらなるお役に立てるようなサービスを展開していければと考えています。