CS組織のイノベーションのために ~「横浜トリエンナーレ」で見た現代アートに触発されて~
投稿者:小川 悟
2008/11/30 12:41
この記事は約8分で読むことができます。
産業立地論研究の分野で現在最も影響力を持っているのが、マイケル・ポーターの「産業クラスター論」である。産業クラスターとは、「特定領域の企業や組織が相互に関連を持ちながら地理的に集積する」ことである。ポーターによれば、産業クラスターが国家や地域の競争力を左右する最も重要なファクターである。
/『創造都市・横浜の戦略 クリエイティブシティへの挑戦』(野田邦弘氏著)
「芸術の秋」などと言っている間に、すっかり肌寒い季節になりました。さて、先日私は、同僚を誘って「横浜トリエンナーレ2008」に行ってきました。一見、Webコンサルティングはもとより、私の仕事ともまったく関係ないようなテーマに感じられるかもしれませんが、この現代アートの祭典に赴いて感じたこと、新たに触発されたことについて仕事に活かすことができないかという試みをしてみたいと思います。
この「横浜トリエンナーレ」、私は前回2005年開催の第2回から行くようになりました。その頃も、美術館に行くことは好きでしたが、いわゆる普通の絵画作品を鑑賞することが好きだったため、「現代アート」と聞くと難解なものであると身構えてしまって、せっかく見に行ってもそれまでの自身の先入観がバリアのように邪魔して、すんなりと感覚で理解することができませんでした。ですので、今年こそは!と事前に様々な書籍や雑誌、Webサイトを見て予習をしてから行こうと考えていました。そんなときに読んだ書籍の一つが、『現代アートバブル いま、何が起きているのか』(吉井仁実氏著)でした。本書、「現代美術を楽しむために知識はいらない」という項では、「「習うより、慣れろ」ということが、現代美術に親しむコツのように思います」と書かれています。このことは現代アートに限らず、仕事も同じかもしれませんが。
言われてみれば、ピカソやゴッホなどの絵が簡単で、現代アートが難解であるというわけでもありません。現に年に2回、東京ビッグサイトで開催されている「GEISAI」を2001年に主催した日本を代表する現代アーティストの村上隆氏の作品は、2003年にルイ・ヴィトンとのコラボレーションを果たしていますし、今年6月に代々木公園(渋谷区)にもきた移動式美術館「Chanel Mobile Art」では、日本人としては、荒木経惟氏、田尾創樹氏、束芋氏、オノヨーコ氏などがコラボレーションしており、現代アートと言ってもより身近な存在になってきたように思います。ですので、過去の有名絵画と現代アートとの間に多少の知識の差こそあれ、慣れの問題であると思えるようになり、今回は「どのような作品があるのだろうか?」と、行く直前くらいには半ば楽しみになっていたものでした。
ところでこの「横浜トリエンナーレ」、調べてゆくと成立の背景など大変興味深いものでした。日本初の国際現代美術展として、国際交流基金と横浜市が中心となって開催している美術イベントで、政府・自治体主導で企画される非常にスケールの大きいものでした。以前に本コラムで書いた「インターネットがもたらす第三の開国の夜明け前 ~2009年、横浜開港150周年~」も関連した内容になると思います。
それにしてもこの横浜では、なぜこうした大小のイベントが多数行われているのでしょうか。冒頭のエピグラムで挙げた『創造都市・横浜の戦略 クリエイティブシティへの挑戦』では、続けて以下のように書かれています。
ポーターの「特定分野」をアートにして生まれたのが「創造界隈(クリエイティブコア)」というコンセプトである。横浜市の場合このコンセプトはイギリスのブレア政権が掲げた「創造産業」(Creative Industries)を下敷きにしている。(中略)
ZAIMを運営する(財)横浜市芸術文化振興財団によると、ZAIMでは、ジャンルの異なるアーティストやクリエーターが同じ場所にいるので、作品制作などの場合気軽に相談できるといったメリットは大きいと言う。クリエイティブ・クラスターのメリットが発揮されていると言えるだろう。(中略)
2006年に制定した「横浜市基本構想」(長期ビジョン)のなかで横浜市がめざすべき都市像として「市民力」(市民の活力と知恵の結集)とあわせて「創造力」(地域の魅力と創造性の発揮)がうたわれた。
/『創造都市・横浜の戦略 クリエイティブシティへの挑戦』(野田邦弘氏著)
つまり、世界に開かれた港湾都市――、国際化の進む横浜にとっての「戦略」の一環でもあるのではないでしょうか。「産業クラスター」というと難しいので、産業集積都市と言い換えるとシリコンバレーはその代表的なものでしょうし、“渋谷ビットバレー”(cf.「クロニクル「インターネット業界10年史」 ~まるでビッグバンのように、超高圧な一点の意志からその広大無辺な市場は生まれた~」)も日本のIT産業の集積都市になっていると思います。
このような「産業クラスター」の提唱者であるマイケル・ポーターで思い返すのが、本コラムを書き始めたときのことです。「「Webコンサルタント.jp」開設にあたり(自己紹介)」で、私は「価値の連鎖と淘汰とを繰り返し、質の高い競争優位のバリューチェーンを構築したい」と書きました。この「バリューチェーン(価値連鎖)」もポーターの言葉ですが、自分の貴重な時間を割いて、また、会社(やお客様)から対価を頂いて仕事に臨むのであれば、何かしら「価値を生みたい(価値活動)」と足りない頭で考えたものでした。特に先日、毎日新聞の記事で、生キャラメルを製造・販売するタレントの田中義剛氏の言葉(「農産物は原料では高く売れない。だからこそ加工する必要がある」)を見て、一層強くそう思うようになったものでした。
それまで私がプライベートの話題で「美術展を見に行くことが好きだ」と言うと「芸術はお金にならないから、趣味に生きるタイプの人だね」といったように、価値を生まないという意味のことをよく言われたものでした。しかし、ジャクスン・ポロックという抽象画家の「No. 5」という作品には、実際2006年に競売にかけられた際に、たった1枚の絵画に136億円の価格が付いたことがありました(cf.「2008年度版世界で最も高価な絵画トップ15」/GIGAZINE)。それだけの価値を見出した人がいたということでしょう。
むしろ、あれだけ騒がれた「Web2.0」でさえ、実際に「Web2.0」に取り組んで利益を生み、成長している企業は全体から見れば極一部かと思います。いくら面白いものでも、高度な技術力をもってつくられたものでも、市場のニーズに見合っていなければ、お金なり喜びなり価値を見出しにくいものです。両極端な例でしたが、「Web2.0」に限らず、どの企業でも自社の戦略が生み出す付加価値がマネタイズされることを意識しながら日々企業努力を続けているのかと思います。ですので私はビジネスシーンにもアートシーンにも、どちらにも利益追求からフィランソロピーの考え方までがあるのではないかと考えています。
少し話しがそれましたが、この「バリューチェーン(価値連鎖)」を意識し始める以前までは、「信頼ある組織へ」をテーマに、社内外で交わされる約束事を逐一守っていこうといったスローガンを掲げることが精一杯でした。とにかく「約束を守り続ける」という至極当たり前のことが、私たちには難しかったのです。しかし、約束を守らないことによる弊害に対し少しずつ学習を続けながら(cf.「学習する組織」/@IT情報マネジメント用語事典)、一つひとつ目の前の課題をクリアしてきました。そして今期期初に掲げたゴールビジョンを達成するにあたって不明瞭となっていた実際の行動計画について、以前の合宿研修(cf.「「Web戦略立案シート」のご紹介 ~管理者合宿研修を終えて、情報共有(ナレッジ・マネジメント)の社内推進を心に決める~」)で具体的に洗い出し、私たちCS部は「顧客満足度向上」という大きな枠の中で、現時点での強み・弱みを分析した上で、「生産性向上」と「価値創出」といった結果を創出するための方法を試行錯誤してきました。たどり着いた一つの境地として、現時点で不足している「人材力」、「ツール」、「組織力」を掛け合わせることで、現在のバリューチェーンがより強固なものになると確信しました。つまり、「優秀な人材が、高度な道具を使いこなして、それを組織全体が有機的に連携しながら機能を最大限に活用している組織」のイメージです。そうしたCS組織のイノベーションのため下半期に取り組むべき以下の7つの行動計画を立てました。
1、今期末までの行動計画を立てる
2、顧客管理、原価工数管理の徹底
3、各種プロジェクト/MTGの権限委譲
4、マニュアル/ガイドライン体系化
5、外部ノウハウを導入する仕組みの構築
6、教育/評価の仕組みの導入
7、情報共有システムの構築/運用
前期までに構築を急いだCSバリューチェーンが、お客様にとって本当に必要なサービスになり得るかどうか、 単に消費者不在の自己満足の取り組みで終わらせないために、今期も残すところあと4ヶ月、必死に取り組んでいきたいと思います。
これら7つの行動計画については、機会がありましたらご紹介させて頂こうと考えていますが、私たちが普段お付き合いさせて頂いている中小・ベンチャー企業では、このような課題を抱えている私たちと共通点も多いのではないでしょうか。
cf.中小企業庁:中小企業白書
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/
昨今の金融危機などがもたらす影響も少なからずあると思いますが、私たちの会社の企業理念である「共存共栄の精神で世の中に新たな価値と笑顔を創出します」を常に胸に秘めつつ、自分たちの仕事をきちんとやり遂げたいと思います。