目標管理と人材育成、組織デザインについて ~「KPT法」による”ふりかえり”の実践と、コンピテンシーシートの活用~

投稿者:小川 悟

2009/02/15 22:14

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「そこに行きたい」という熱い気持ちや情熱(パッション)、「なぜそこに行きたいか」を語る使命(ミッション)や夢、「そこはたどり着けばどのようなところなのか」を目に見えるように(ビジュアル)に描いたビジョン、「そこに行ける」という自信と勇気、「どうしたらそこに行けるかを示す」シナリオやステップ(足取りの展望)を持って進んでいきたいものだ。

/『組織変革のビジョン』(金井壽宏著)

 

先日、「「フリーセル大学」4月開校! ~”学習する組織”確立のための企業内大学設立に向けて~」の記事で、「学習と成長の視点」や「クリエイティブ・テンション(創造的緊張)」について触れました。今回はその続きとなるか分かりませんが、私たちCS部が今までに取り組んできた人材育成のための試みについてご紹介していきたいと思います。

 

人材育成というと、私たちのような中小・ベンチャー企業よりも、資本のある大手企業の方がはるかに気を遣っていることでしょうし、事実多額のコストを投じて既に様々な取り組みをしていらっしゃることと思います。しかし、本当に人材育成が急務なのはむしろ私たちのような中小・ベンチャー企業の方ではないのか?といった疑問が、数年前から脳裏を過ぎるようになりました。特に私たちが提供するWebコンサルティングのような労働集約型ビジネスにおいては、“人材力”が業績に大きく影響してくると考えていました。そんな折、以下のような記事をネットで見つけました。

 

■「やる気と業績、深い関係=中小企業の実態調査 法政大など」(時事ドットコム,2009年2月16日)
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2009021500095

■「1月の企業倒産15.8%増、6年ぶりの高水準、負債総額は44.3%増、商工リサーチ」〈日経BPネット,2009年2月9日〉
http://www.nikkeibp.co.jp/article/news/20090209/130775/

 

このような外部環境が激しく変化する厳しい冬の時代にあって、「業績」と聞くと思わず過敏に反応してしまいます。少しでも高い目標を掲げて、その目標達成のために最適な目標設定と行動計画を立てて外部環境に左右されない、今風の言葉で言えば、「サバイバビリティ」(日経新聞,2009年1月1日「世界この先」より)――この「サバイバビリティ」(生き残る力)は、昨今、様々な要因で、また様々な変化形態によって、人の人生よりも短命な企業が増えてきた時代の代名詞ともなった「サスティナビリティ」(持続可能性)をうけた言葉ですね――を付けていきたいと感じました。

 

ところが、そうかっこいいことを言っても、現実的には人材育成にかける時間もお金もない――。

中小・ベンチャー企業の多くで、自社で試行錯誤したり、人材育成を外部コンサルティングに頼ったり、自社にはマッチングしにくい人材育成・評価制度を導入してはなかなか思うように成果に繋がらない、といったジレンマに駆られるケースがあることは、自分たちの今までを振り返ると想像できるような気がします。

 

しかし、先にも引き合いに出したように、私たちは元々小さな組織体からスタートしていたので、生き残るために社員全員が一丸となってたゆまぬ努力を続けざるを得なかったのです。さらに言えば、後年になって、自社の成長フェーズに合わせて大きく立ちはだかる壁を前に、「ただ闇雲に努力を続けるだけでもダメだ」といった大きな挫折を経験することが必要だったわけです。そうした力技から論理的思考への転換など、すべてが必然によってもたらされた試練であるかのように感じていました。

 

もちろん、そうした「サバイバビリティ」はあくまでも方法論であって、目的としては当社企業理念の実現のために必要な行為でした。念のために補足しておきますと、現在のようにステークホルダーを広く意識した企業理念が定まる前までは、そこに自己実現などの要素も多分に含んでいたように思い返します。ですので今のフェーズであれば、「お客様のために」「会社のために」「自分たちのために」生き残らなくてはならないわけです。もう一段成長フェーズが上がってくれば、「社会のために」「株主のために」といった「企業の社会的責任(CSR)」を果たすための目的もプラスされてくるのだと想像しています。

 

以上のような背景をもって、当社自体とともに私たちCS部も少しずつ大きな組織へと成長していきました。ところが、組織が大きくなってくると今までは起こり得なかった新しい問題が浮上してきます。

1、各自目的は同じであっても、手段にバラつきが生まれることで意志決定が遅れ、推進力・生産力が低下する。

2、他者依存型な習慣(cf.「大企業病」)が生まれ、当事者意識が欠如し、リーダー不在の組織が続くことでロールモデル創出や結果創出がしにくくなり、人材が育ちにくくなる。

3、個々の役割や存在意義が不明確に(確立が難しく)なり、組織内にモチベーションの差異や作用・反作用が生まれ、上下間で干渉し合うことでプラス方向への進路が妨害される等、健全でない風土が生まれる。

 

こうした諸問題の発生リスクを抱え、一言で言えば「コミュニケーション力や問題解決力に不足があり、物事をうまく進めることができずに人任せになり、挙句自分で何も得るものがなくなってモチベーションが下がり、スタンダードを”自分”にすることで協働できていると錯覚する」ような悪いスパイラルが生み出されるかどうかの転換期でもあった2006年の上半期頃、私たちCS部の管理職メンバーはある一つの方向性を示しました。この「コミュニケーション力」や「問題解決力」といったようなスキルは、職務能力として求められると息が詰まってしまいそうですが、職場よりももっと難しい問題と直面するであろう「人生」をうまく渡り歩いてゆくために持っていて損はない能力だと思うので、是非みんなで身に付けたい!という思いで意見をぶつけ合いました――。

 

「コンサルティングと言うくらいだから、まず問題解決ができないとね」

「他者の問題解決をする前に、そもそも自分の問題の解決ができないと始まらないよ」

「自分の問題解決って言っても、今まで体系的に蓄積されてきたノウハウなんて社内になくない?」

「だとすると、問題解決の仕方が分からない人にやり方を伝えるのって難しいよね……」

「だからその問題を解決するための方法を僕らが考えるんだよ、最初から簡単だからやろうなんて一言も言ってない」

「おーし、見えてきた!みんな目的をぶらさないでよ。KJ法とか使って一つひとつ整理して、組み立てていこう!」 

――およそこのような会話の末に生み出されたのが以下のシートです。

 

■「CS部成長のあゆみ」と「自己育成シート」

 

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上記、「CS部 成長のあゆみ」は、言ってみれば上司と部下のコミュニケーションツールです。

また、自社の企業理念やゴールビジョンと個々人のそれとをミッションリンクさせてモチベーションの源泉とするとともに、目標管理の精度を向上させ、その実現のための戦略性を養うことを目的としています。

使い方としては、月に1回、月末月初にかけて個人が記入し、そちらを元に担当上司との面談時に使用します。KPT法などを用いて先月のふりかえりができる仕組みになっています。ゴールビジョン(cf.CS部が今期期初に掲げたゴールビジョン)は課ごとに用意されているので、分業化・専門化が進んだ今の組織でもそれほど苦労することなく、自身の目標設定や行動計画を立てることができるかと思います。

経済産業省で配布している「社会人基礎力」育成のためのシートにも似ていますが、これはスピード重視の当社オリジナル仕様。もっと必要最低限まで項目を絞り込み、ブレイクダウンされて簡易にできています。ある程度フレームワーク化されてコーチングの観点からも意識しつつ、個性や自主性を見抜くために自由記述欄も残しています。また、実は今月からマイナーチェンジしています。当初は2006年の9月から運用を開始していましたが、昨今の外部環境の変化、それから当社の求める基準や社員のレベルアップに応じて、過去のフォーマットではいろいろと適さない部分も増えてきたためです。

 

一方、「自己育成シート」は四半期に一度、「CS部 成長のあゆみ」と同じタイミングで提出し、やはり面談時に使用します。当社で求められる「コンピテンシー」に関する項目が、各カテゴリ毎に分かれて数十項目あります。この項目はCS部の管理職メンバーがKJ法によるブレーンストーミングを重ねて絞り込んだ内容となっています。はじめに個人で記入し、後から担当上司が記入してギャップを確認し合います。こちらは「CS部 成長のあゆみ」と比べると、どちらかと言えばもっと基本的な内容が並んでおり、中長期的視野での人材育成を考慮した設計となっています。

 

特にこの「自己育成シート」に関しては、何もないところからアイデアを出し合うことに大変苦労をしました。そもそも、社会通念上における「コンピテンシー」についての理解もままならない中、当社で求める基準を定めてゆくのだから楽ではなかったです。しかしながら、この「コンピテンシー」については、職務に携わる皆が同じ内容理解(コンテクスト)、意識で取り組まなければ会社の成長も個人の成長もないだろうし、これからの変化に対応してゆくことも難しくなってくる筈なので「自己育成シート」の完成は避けられない運命にありました。

 

「コンピテンシー」という言葉についてネット上で調べてみると、語源も古く、たくさんのページで使われていることが分かります。『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著)のような考え方かな?くらいの気持ちで調べていきました。

もともとはハーバード大学の心理学者、D・C・マクレランド教授が提唱し始めた概念のようです。人材育成をするにあたり、もっとも指導が難しい要素は個々人の職務能力ではなく、信念や価値観、使命感や動機付けといった、いわゆる「氷山モデル」で見えない部分とされる本人の性格や資質の部分(潜在能力)であり、私たち管理職メンバーもこの部分については、いわゆる「背中を見せる」以外の手段でどうやって指導してゆくかについてかなり悩んだものでした。

 

■「人材開発の動向を概観できるサイト1/2」(日経BP社の人材開発支援サイト ヒューマンキャピタル Online)
http://blog.nikkeibp.co.jp/hcl/archives/2005/11/2_1.html

http://blog.nikkeibp.co.jp/hcl/archives/2006/01/3_2.html

 

上記のページでも紹介されている「ASTD(American Society for Training and Development,アメリカ人材開発協会)」は、職場における人材開発の方法論について研究する世界最大の組織と言われます。このASTDが掲げる「21世紀のコンピテンシー」には、例えば以下のような記述があります。

 

1、同業界と自社のことをよく知っている

同業界と自社のビジョン、戦略、目標、文化を理解し、人の業績を組織目標につなぐ。

4、問題解決能力

業績の現実とあるべき姿の差を埋められる。また他人がギャップを見つけ知識を使ってギャップを埋めることを助ける。

7、業績の理解

行動と結果を区別する。成果を認識する。

14、大局観

目先の障害にとらわれず、前方の目標と結果を見通す。

/『アメリカを救った人事革命 コンピテンシー』(太田隆次著) 

 

ざっと一部を引用しただけでも、職務遂行上における理想とも言える考え方が述べられていますが、こういった内容も自社に見合った表現に変えて、先の「自己育成シート」に含められています。あとはこうしたシートを活用する上で、マンネリ化や形骸化することを避けるために私たち管理職メンバーもコーチングスキルを磨かなくてはならないし、必要に応じてシートそのものや運用ルールの見直しを図ってゆく必要も出てくることかと思います。

なにはともあれ、こうした指導の元で形成される人材がお客様の元へお伺いし、お客様が各々抱える経営課題をWebを用いて解決するための手段を講じなくてはならないわけですから、先に述べたように単に「(能力を)身に付けたい」という個人の希望的観測ではなく、「身に付ける」といった責務として今後もしっかりと運用を続けていきたいと思います。

 

それでは、何かご相談等ございましたら、こちらのフォームからお気軽にお問い合わせ下さい。