再読、『ザ・ゴール』。 ~エリヤフ・ゴールドラット氏来日! ~”生産的”であるとは何か?~

投稿者:小川 悟

2008/12/07 19:01

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この工場では重要度順に客からのオーダーを四つに分けることができる。「Hot(重要)」、「Very Hot(最重要)」、「Red Hot(超最重要)」、「Do It Now(いますぐやれ)」の四つだ。

/『ザ・ゴール 企業の究極の目的とは何か』(エリヤフ・ゴールドラット著)

私たちCS部では、10月からの下半期の行動計画の一つとして、「生産性向上」を挙げています。「生産性向上」と一口に言っても「言うは易し、行うは難し」ですね。ある種、工場の機能を有した私たちCS部にとって、「生産性」は命綱と言えると思います。ここが悪化すれば、お客様にご迷惑をお掛けするだけでなく、会社の存続にも影響します。ボトルネックとなっている部分をいち早く発見し、スピーディーに改善することが求められてきます。

 

ところで、昨今のニュースでは米自動車大手3社(ビッグスリー)――、すなわち、ゼネラル・モーターズ、フォード・モーター、クライスラーの3社が、公的資金による救済策を求めるという、いまだかつてないような異常な事態を知らせています。また、日本三大自動車メーカーで言えば、ホンダが今月5日に、2008年限りでF1から撤退するというニュースもありました。さらに、2008年上半期の世界販売台数で米GMを抜いて世界1位になったトヨタでさえも、2009年3月期の営業利益を前年比73.6%減に下方修正、大幅減産措置を取っているとのことで、他社も含め派遣社員の雇用が不安定になっているということを目にします。金融危機やガソリン高騰、環境保護に対する消費者の志向の変化などのような大きな社会的環境変化はあったにせよ、20世紀初頭から世界の産業を牽引してきた自動車メーカー各社が、まさに苦境に陥っているという異様な状況です。

先のフォード・モーターと言えば、創業者のヘンリー・フォードが開発した生産方式、「フローライン(流れ作業)」で産業界において革命的な変化を起こし、以降半世紀に渡って世界の産業界をリードしてきました。重厚長大・大量生産がもてはやされた機械崇拝の時代にあって、先のトヨタでさえも創業期の1937年から1950年までの13年間の間に生産した自動車の台数が2,685台であったのに対し、フォードのルージュ工場では”日に7,000台”を生産していたこともあったそうです(cf.『リーン生産方式が、世界の自動車産業をこう変える。 最強の日本車メーカーを欧米が追い越す日』/ジェームズ・P・ウォマック他著)。

そのルージュ工場を視察した当時の豊田英二トヨタ社長と、「生産の天才」と呼ばれた大野耐一氏(cf.Wikipedia「大野耐一」)は、この大量生産方式が日本の市場にはそぐわないと判断し、帰国後、「トヨタ生産方式(TPS=Toyota Production System)」を確立していくのでした(cf.『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』/大野耐一著)。トヨタ生産方式については、以前にも本コラムで触れたことがありました。

cf.「名古屋営業所開設に想う ~ものづくり大国”NIPPON”ブランドを牽引する企業にあやかりたい~」
http://www.web-consultants.jp/column/ogawa/2008/03/post-7.html

 

週末、たまたま「週刊ダイヤモンド」の特大号新聞・テレビ複合不況に目を通していて、第二特集に「TOC(Theory of Constraints):制約理論」の提唱者であり、あの『ザ・ゴール』の著者で物理学者、エリヤフ・M・ゴールドラット氏の書かれた記事(巨人の肩の上に立って 「生産概念」と「生産手法」の比較)があり、興味深く読みました。

cf.エリヤフ・ゴールドラット博士 緊急来日セミナー 2008年11月29日~12月2日(セミナー情報ポータル「セミナーズ」より)
http://www.seminars.jp/goldratt/

 

『ザ・ゴール』は、社会人になって数年間の内はいわゆるビジネス書にまったく興味を示さなかった私が、社会人になり初めて読んだビジネス書だったように思います。当時は広告業界にいた関係もあり、それ以前には周囲からの勧めで、『経済ってそういうことだったのか会議』(佐藤雅彦・竹中平蔵著)を読んだことがあったので(この時点でもまだ、ビジネス誌は読んだことがありませんでした)、これをビジネス書に含めても、人生で2冊目のビジネス書との出会いということで、なんとなく感慨深いです。

とは言いながら、当時の読後感を思い出してみると、正直面白くなく、単に流し読みをしていたにすぎなかったように思います。当時の私は、フレッシュな営業マンに憧れ、営業職を志望していました。先述のコラム(名古屋営業所開設に想う ~ものづくり大国”NIPPON”ブランドを牽引する企業にあやかりたい~)でも少し触れたのですが、父の仕事が町工場で、中学3年の夏休みに社会勉強を兼ねて仕事を手伝いに行ったときの思いが、その背景にあったかもしれません。

私とはだいぶ年も離れた戦中派の父ですが、「この機械がガシャンと降りる度に部品が1コ作られるが、1コ1円にもならない。10個作ってやっと1円になる」と言ったことに対して、「なんでこんな儲からない仕事をするのか、自分は将来、こういう仕事には就きたくない」と言ったことがありました。その際、父から「でも、そんな一介の町工場の仕事でも、家を建てたし、お前ら3人(姉が二人います)をみんな私立校に通わせているぞ」と言われ、咄嗟に「その歳になれば、誰にでもできるよ」と答えたものの、後年になって就職活動で50社全滅し、大学卒業後にフリーターや派遣スタッフなどをしていた私は(cf.就職活動回想録 ~新聞各社インターネット進出の潮流の中で~)、「お前みたいにただお金を使うことだけを目的に仕事をしてきたんじゃない」と言われ、それが悔しく、いわゆる「できる営業マン」に憧れたのかもしれません。

そんな私が、何の因果か父の仕事を継ぐことはないまでも、今、「ものづくり」と「生産管理」の仕事に携わっています。もちろん、今ではこの仕事に誇りを持って取り組んでいますが、不思議な因果関係だと我ながら感じています。

 

この『ザ・ゴール』が日本で刊行されてから7年半。冒頭で書いたように、産業界は新たな局面を迎え、危機的状況に陥っています。2001年4月刊行時に、本書解説に書かれたのが以下の言葉ですが、今となってはとても意味深長に感じます。

いつ日本語版は出版されるのかと訊ねた。すると、博士は真顔で、「『ザ・ゴール』が日本語で出版されると、世界経済が破滅してしまうので許可しないのだ」と答えたのである。「日本人は、部分最適の改善にかけては世界で超一級だ。その日本人に『ザ・ゴール』に書いたような全体最適化の手法を教えてしまったら、貿易摩擦が再燃して世界経済が大混乱に陥る」

/『ザ・ゴール 企業の究極の目的とは何か』(エリヤフ・ゴールドラット著)

昨今、本書と似たような物語設定の書籍を社費で購入させて頂きました。問題解決の手法を歴史に学ぶための「社内推奨図書」制度 ~映画「レッドクリフ」観ました!~でもご紹介させて頂いた社内推奨図書として、『マンガ 餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』(cf.「マンガ 餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?|ダイヤモンド・オンライン」)が書棚に並んだのですが、マンガで読みやすいこともあって社内では人気図書の一つとなっています。

本書では、主人公の女性社長が自社の再建のために「コンサルタント安曇教授」に相談し、成功報酬に関しては支払うべきと判断した額でよいと言われますが、『ザ・ゴール』においては、イスラエルの物理学者である著者のエリヤフ・ゴールドラット氏が扮する物理学者ジョナ(3ヶ月以内に生産性を向上させなければ閉鎖すると本社から通告を受けた工場の工場長を務める主人公のアレックス・ロゴの大学時代の恩師役という設定)から、「君が私から学んだことの価値の分だけ支払ってくれればいい」と言い渡される場面など類似した箇所もみられます。

 

さて、この『ザ・ゴール』。主人公の工場長であるアレックスは、恩師であるジョナから――、

「言ってみたまえ、生産的であるとはいったいどういう意味なんだね」

と詰問を受ける場面があります。

この、ソクラテスの問答的な問い(cf.『「Webコンサルタント」という選択』発売に寄せて(前編) ~3S(単純化・標準化・専門化)の重要性を知る~)に対して、みなさんならどう答えますか?

本書に書かれた解答を知る私も、「生産的」であることがどういうことなのか、ずっと悩んできました。

「私たちが探し求めているものは、いったい何なんだ。三つの簡単な質問に答えることのできる能力じゃないのか。『何を変える』、『何に変える』、それから『どうやって変える』かだ。マネジャーとして求められる、最も基本的な能力を探し求めているんだ。考えてもみてくれ。この三つの質問に答えられないような人間に、マネジャーと呼ばれる資格があると思うかね」

 

最後になりますが、私たちは冒頭で掲げたような大手企業ではありませんし、お付き合い頂いている企業様もいわゆる中小・ベンチャー企業様の割合が多いです。私たちのように、「ものづくり」や「生産管理」に携わるご担当者様も多いことと思います。それらのコンサルティングが本業務であるわけではありませんが、普段私たちがご提供する「Webコンサルティング」業務の流れの中で、そうしたお話などもフランクにしていけたら楽しいだろうなと思っています。

私たちの提供するWebコンサルティング業務で重要となってくるものに、「Webに関するプロフェッショナル」という要素ももちろんありますが、それ以前にまず「顧客理解」です。お客様のビジネスに対する理解と、それから「お客様のお客様へ対する理解」です。当社とお客様とで共通の『ザ・ゴール(目標)』を描きつつ、その目標の実現に向かって私たちのご提供するWebサイトとWebコンサルティングが役立つことを願っております。