他業種に学ぶホスピタリティと価値創出の方法 ~「出迎え三歩、見送り七歩」を観点にレストランを巡って見えてきた”サービス業”における差別化戦略~
投稿者:小川 悟
2010/05/05 20:27
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感性を磨くためには本物・一流を体験することです。その中から価値を創造できる人材が育ってくると思うのです。
/『絆が生まれる瞬間 ホスピタリティの部隊づくり』(高野登著)
私事ですが、先月で35歳を迎えました。今年はいろいろあって、大変多くの方にお祝いをして頂けました。今回のコラムでは、その中から当社代表の木村に連れていってもらった、”奇跡のレストラン”、「カシータ -Casita-」でのエピソードなどを交えながらお話したいと思います。
レストラン業、広く言えば外食産業ですが、私たちIT業界よりはもちろん歴史があり、特に私たちのように最新技術の開発というよりは、どちらかと言うと人と人とのコミュニケーションを重視した”サービス業”の要素も含んだWebコンサルティングという業種から見ると大変参考になることが多いものです。
今期、CS本部で重点目標として掲げている「IT企業ホスピタリティ」を実践してゆく上で、木村からは「是非、強く推進していってもらいたい」と、私とWebマーケティング部の松谷に、このカシータでのディナーをプレゼントされる運びとなったものです。 カシータの高橋オーナーには、以前、当社にお越し頂き、「ホスピタリティ研修」を行って頂いたことがあって、当時強烈に響いたお話でしたので、こういった形で再度お会いできるとしたら、このタイミングでこれ以上の贈り物はない、と期待に胸を膨らませて臨みました。
■カシータにて。着席すると、メッセージカードと、名前の刺繍入りナフキンが。また、タクシーで到着したときは雨が降っていましたが、 店員さんがお店の外まで出迎えに出てきて頂いていました。(下写真)
――さて、35歳。ここで少々余談です。
誰しもが通る道かと思うのですが、個人的には34歳までとはまた印象が違うような、自信とも焦燥感ともつかない不思議な感覚を覚えました。そこで心機一転、新たな視点が欲しくなって書店に足を運んでみたところ、不思議と「35歳」を冠したタイトルの書籍が目立ちました。これが以前から引き合いに出している「カラーバス効果」かと、やはり意識を集中させていると発見できるものも増えるのだなと思いながら――、いや、どう考えてもおかしい、多過ぎるのです。
昨年、「NHKスペシャル」で特集され話題になったからか、「35歳」をテーマに扱った書籍、雑誌が異様に増えているように思います。TVで話題になったということもあるでしょうが、マーケティング的観点で見ると他にも理由がありそうです。
そもそも現在の「35歳」周辺を人口ピラミッドに当てはめてみて考えると、35歳~40歳は団塊ジュニア(第二次ベビーブーム)世代に該当し、1980年生まれ以降の世代と比較しても、消費のマスとして大きいということも挙げられるかもしれません。
cf.平成21年人口動態統計の年間推計(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei09/index.html
昨今の出版不況の中で、売れているテーマを他社が追随するのは至極もっともな流れでもあるし、そういった影響もあるのかな?と、自身へ対する心配の矛先を、ついつい他者へ向けてしまうのでした(汗)。
ちなみに現在では、上記統計を見る限りでは、1970年代前半の出生数の約半分くらいに落ち込み、高齢化による死亡者数が増え、結果として人口が減少傾向にあります。そんな矢先に、不況や消費の冷え込みなどが併発すると、マーケティングもかなり難解になりますね。
■消費意欲強いはずの「35歳」 この層の「絶望」が最大問題インタビュー「消費崩壊 若者はなぜモノを買わないのか」第3回/三菱総研・吉池基泰主任研究員に聞く(「J-CASTニュース」,2010年5月3日)
http://www.j-cast.com/2010/05/03065375.html
このように、とかく消極的な切り口で取り沙汰されることの多い世代ではありますが、同時代にヒーローも多く、結局はどこに照準を当てるかという問題であるように、私はポジティブに捉えたいと考えています。
さて、ここで本題に戻る前に、先の「カラーバス効果」について改めて触れたいと思います。詳細はここでも何度か触れてきたので割愛しますが、加藤昌治氏の『考具』に詳しいのでご参照下さい。当社10期の経営テーマ「全員プロフェッショナル」や、CS本部の重点テーマに掲げている「IT企業ホスピタリティ」などを意識していると、ホテルやレストランなどを利用していても、ついつい「サービス業」という括りで観察してしまうことがあります。今のCS本部の体制構築の際に、トヨタ生産方式や『ザ・ゴール』等、製造業の中に解を見出そうと苦慮したのと同様、今度はホスピタリティの在り方として、何かを見本にしたくなったというわけです。
このホスピタリティの考えを説明する上で例に挙げたいものとして、以前に林田正光氏のセミナーを聴講しに行った際に印象に残った話が良いと思いましたのでご紹介します。「ビジネスマナーを語る上で(今では忘れ去られたしまったものも多いかもしれないが)、日本にはもともと良い文化やしきたりが多かった」というもので、例として「出迎え三歩、見送り七歩」の言葉を知りました。語源は茶の湯か、詳しくは分かりません。この話自体、本題から少し外れたところでお話くださったものでしたが、個人的には「そんなこと、普通のレストランでしてるところなんてあったかな?」と疑問に思いながらその後過ごすこととなったので、大変印象に残っています。
この「出迎え三歩、見送り七歩」ですが、もちろん言葉のあやで、実際に三歩、七歩と決まりごとがあるわけではありませんが、飲食店などでお客様をお迎えする際はお店の外まで出て出迎えて、お送りするときは(今どきの表現で言えば)車道にまで出てお見送りする、くらいの表現を言うのでしょう。
この言葉に注意して飲食店を見比べてみると、今まで気付かなかっただけで、カジュアルなレストランでも、大衆居酒屋でも実際にあったんです。店員さんが、ドアの外まで出てお見送りをしてくれるお店が。これ、意識なくして、また、教育なくして自然体でできる行為ではないと思いました。知ってなくては出来ないことです。
他にも事例があって、5月は同僚の結婚式披露宴が立て続けに3回行われることになっており、その内の一つについて、2次会の副幹事をさせてもらうことになりました。パートナーを組んだ幹事の同僚とお店選びをする中で数店のレストランを回ってみたのですが、先の「出迎え三歩、見送り七歩」の観点で見ると、店舗ごとに圧倒的な「違い」があって、お店選びでは迷いませんでした。
まず、下見で回っていた際、会社が休みの日に、混み合う時間体の前に打ち合わせの予約をしたのですが、最終的に決めたお店は、約束の時間に店員さんがお店の入口から出て待っていてくれました。そして帰り際には、(上階にあるお店ですが)エレベータで1Fまで降り、歩道まで出てお見送り下さいました。
私が言いたいのは、「至れり尽くせりで良いお店だ!」という感想ではありません。こういったことが徹底されているお店は、「他の面でもしっかりできていた」のです。まず、着席するや否や飲み物が出てきて一言「今日はわざわざありがとうございました」と始まり、ヒアリングベースでストレスを感じることなく話が進み、2次会のゲームなどは一般的なものが全てノートパソコンやファイルの中にプレゼン資料として準備がされており、イメージがわくように丁寧にご説明頂けました。さらに、ゲームの景品で迷っていたところ、予算別に購入可能な商品の一覧表が用意されていて、それを参考に選ぶことができるようになっていました。最後には店内を全て案内してくれ、当日のデモンストレーションのようなことも簡易的に行って下さいました。
他のお店と同様、「結婚式の2次会でよく使われることがある」という青山・表参道近郊の激戦地区にありながら、他のお店では「どうぞ好きに見ていって下さい。何かご不明な点などがあればお聞き下さい」というあしらいでした。もちろん例の「出迎え三歩、見送り七歩」はありません。この歴然とした差は何なのだろうと少し考えたところ、もちろん気持ちの面も重要なのですが、林田正光氏もおっしゃっていたように「戦略」があるかないか、といった差ではないのだろうかという結論に至りました。
他のレストランは、「結婚式の2次会で使われることがある」という自社理解で留まっていたのに対し、私たちが選んだレストランは「結婚式の2次会で使われるためにどういうサービスを用意すれば良いのか?」までを考え抜いていて、その差が消費者から見たときの「違い」を生み出していたのではないのだろうかと思いました。この辺は私たちでも大変参考にすることができそうです。
今思い返すと、他にも同じように過去、いろいろと勉強できた”サービス業”も多かったかもしれません。グローバル・ダイニング系列店なども、「ゼスト」の語源となった「Zest for life(=生き甲斐)」、「ラ・ボエム」の語源となった「ボヘミアンのように自由に生きたい」等、創業者である長谷川耕造氏が学生時代にバックパッカーとして世界を旅したときに印象が表現されたようなコンセプトで展開されていて、私も学生時代から十年以上愛用させて頂いています。
このお店で後年になって学べたことは、厨房がオープンキッチンとなっていて、お客様が来店されると、ホールスタッフの方以外も、全スタッフが挨拶してくれることです。「厨房」は私たちの業界で言えば、Webサイトを制作する「制作部」です。ものづくりに携わるスタッフが、接客を学ぶことによって、消費者心理を理解したものづくりが出来るようになると考えたものでした。
ジョン・フォードの『荒野の決闘』が三宿のゼスト、フェリーニの『甘い生活』がラ・ボエム、ジュール・ヴェルヌの『地底探検』がお台場のゼスト。まさに映画だよな。(鹿島茂)
/『タフ&クール―Tokyo midnightレストランを創った男』(長谷川耕造, 鹿島茂著)
そして、このグローバル・ダイニング創業者の長谷川耕造氏の右腕・左腕と呼ばれ、”サービスの神様“と異名をとる新川義弘氏も著書を出されていらっしゃいますが、以前、縁あって偶然にも東京・銀座にある「DAZZLE(ダズル)」(株式会社HUGE,代表取締役社長:新川義弘氏)を利用させて頂く機会に恵まれましたが、こちらもワインタワーなどこだわりのあるお店でした。
また、冒頭でお話した“奇跡のレストラン”「カシータ」――、高橋オーナーがアマンリゾートという有名なアジアンリゾートから着想を得て立ちあげられたレストランということですが、「わがままなお客様こそレストランを楽しむ上級者である」として、Casitaとは(アマンで)「温かく小さな家」を意味するということをWebサイトの中で説明されています。
以上、私たちはこのように考え方ひとつで、実際にレストランを利用する消費者となって創業者が歩んだ精神の遍歴を追体験することが可能です。
冒頭に掲げたように、サービスを提供する者として「サービス」を知る必要があります。自分が幸せでなくては相手を幸せにできないだろうし、自分の問題が解決できない人は他者の抱える問題も解決できない。
同じように、たとえ今すぐ真似をできないような高度なレベルのサービスであっても、知らないことがある日突然分かるようになるということはありません。先ほど列挙したレストランの創業者たちにも着想を得た「元ネタ」があります。これをどのように吸収し、アウトプットし、他店と差別化し、価値を生み出していったのか――、そういう切り口で俯瞰して見てみるといろいろと学べる点も多いものです。
この考え方に立つことで、「会社の認知度が低い」、「商品力が弱い」といったウィークポイントを抱えていても、「中にいるスタッフを教育する」、「他社が出来ていない心地良さを提供できるようなサービス提供をできるように訓練する」等の差別化を徹底することで、今までウケが悪かった市場からの評価を得られるようになる等、活路を見出すことができるようになるかもしれないと感じました。
私たちCS本部でも、前期から今期にかけて幾つかのプロジェクトを並行して動かして参りましたが、今期も多くの価値を提供できるように努力をしていきたいと思います。引き続き宜しくお願い致します。